14.在宅生活でT-Supportを使ってみた
14.在宅生活でT-Supportを使ってみた
宝塚リハビリテーション病院には訪問リハチームがあります。で、訪問リハ用のT-Supportを常備しています。
回復期から自宅退院されて、でもまだ歩行トレーニングでT-Supportを使ったら歩行能力が伸びる可能性が高い、と思った症例で、実際に使ってみたらどうなったか、についてまとめた発表。
14-1.多分この患者さんが一番T-Supportのことをよく知っていると思う。
まずは第6回脳血管障害への下肢装具カンファレンス(東京会場)での私の発表です。

研究の背景です。
当院では脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングにおいて、T-Supportを使用した際の効果を様々な方法で検証してきました。
概ね共通しているのは、装着により歩行速度が向上すること、そしてその要因は歩行時の下腿三頭筋の筋活動が増大するものによるものである、ということです。

ただし、これまでの検証は主に回復期病棟入院中の患者さんにおけるものでした。
私たちは、T-Supportは生活期の片麻痺患者さんでも効果を発揮するものであると考えています。
そこで今回は、生活期の患者さんでの効果を検証してみました。

対象は50歳代の女性で、発症から約5年が経過した右片麻痺患者さんです。
短下肢装具と杖を使用し歩行は自立しておられ、屋外も長距離を歩行されるなど活動性は高い方でした。

実はこの方は、既往の5年前の発症時、私が回復期の担当PTであったこともあり、当時の古いバージョンのゲイトジャッジシステムで歩行動作の変化を記録していました。
こちらが5年前の、歩行トレーニング開始当初の様子です。

約6か月間、歩行トレーニングを実施しまして、退院時には短下肢装具を使用してフリーハンドですたすたと歩行できるようになりました。
ああめでたしめでたし、ということだったんですが。
ところが、それから5年ほどたったある日、この方が私の職場に遊びにこられたんですね。

すると…うーん、なんだかもうひとつの歩き方になってるんですよね。
横から見ると、非麻痺側立脚中期にかけてすこし伸び上がろうとしているのがわかります。

正面から見ると、分回しを呈していることがわかります。

この、のびあがりつつ、分回しをする、というパターンをどうにかしたい、もっとキレイに歩いてほしい、と思いまして。
T-Supportを使ってみました。
なぜT-Supportを選択したかというと、ぶっちゃけると深い意味は無かったのですが、とりあえずいろいろ試してみて、一番効果的だったのがT-Supportだったんですね。

こちらが、同じ日にT-Supportを装着してみた様子です。
横から見てますので、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、伸び上がり・ぶん回しともにが少し減少しています。

今回のケースでは、まず外来リハにおいて6か月間、この期間では概ね週に1回、1時間の頻度でT-Supportを使用しました。
その後、外来リハの終了に伴い、在宅生活において約4か月間使用しました。
在宅生活のこの4か月間の使用方法はさまざまで、当初は屋外歩行時など1日30分から1時間程度でしたが、後半はほぼ就寝時以外装着するようになりました。
装着時間に関してはこちらからは特に指示することなく、本人さんにお任せしました。
なお、在宅生活で使用する際には、従来のT-Supportの形状では日常生活に何かと不便ですので、川村義肢に依頼しまして、腰から下だけのパーツの簡易型T-Supporrtを作りました。
で、その結果、何が起こったかといいますと。

すごくキレイな歩き方になりました。

左が外来リハ開始時、右が10か月経過後です。

ゲイトジャッジシステムの足部のセンサーには、3軸の加速度センサーが埋め込まれています。
そこでこのデータを利用して、麻痺側下肢のイニシャルスイングからミッドスイングにかけての加速度の側方成分の変化を算出しました。
外来開始時、6か月間の外来終了時、4か月間の在宅での使用後の順に側方への加速度が減少し、ぶん回しが減少したことがわかります。

では考察です。
3つのことを考えます。
まず最初に、5年前はなぜキレイに歩けていたのか。
次に、なぜ5年後に歩容が乱れたのか。
最後に、なぜそれをT-Supportで修正できたのか。

5年前、キレイに歩けていたのは、ある程度重度の運動麻痺がある中でも前型歩行にこだわった結果だと考えています。
前型歩行を獲得したことで、麻痺側下肢の前方への推進力を、股関節前面の軟部組織の弾性力で産出することが可能となった結果であると考えます。

ではなぜ5年後にその歩容が乱れたのか。
きっかけがどこにあるのかはわかりませんが、もともと前方への推進力を生みだしにくい麻痺側下肢を動かすための戦略が、股関節軟部組織を用いたものから、左下肢の伸びあがり、および右下肢の分回しへと徐々に変換していったものと考えられます。
左がT-Support使用前、右が10か月後です。
左立脚期での重心の過剰な上下動が抑えられたことがわかると思います。

ではなぜT-Supportが効いたのか。
これは、おそらくT-Supportの弾性バンドを用い、5年前にはできていた、股関節屈筋の伸長を用いた動作を再現することができたからではないかと考えています。
T-Supportは他の歩行補助具に比べ、股関節前面に弾性バンドを這わせるという、生体の持っている本来の動きを再現することが可能です。
今回の症例では、そのあたりがとてもマッチしたのではないかと考えました。

これまでT-Supportは主に回復期において使用してきました。
しかし、今回の症例を通し、生活期においても十分に患者さんのお役にたてるという自信になりました。
生活期の片麻痺者では、様々な制約により麻痺側下肢に治療的なアプローチの時間を割くことが困難となります。
T-Supportは生活場面において使用していただくことで、麻痺側下肢のトレーニング効果が期待できるのではないかと考えています。
14-2.これは10-2のカジカワくんの発表とセットで見てもらったらよいと思います。
つづきまして、当院の訪問リハのタマキくんの発表です。第6回脳血管障害への下肢装具カンファレンス(大阪会場)での発表内容です。


はじめに
在宅の脳卒中片麻痺者のトレーニングにおいて、移動能力を維持・向上させることは重要であり、そのためには回復期と生活期を担当する医療従事者間の連携が不可欠です。
今回、回復期病棟と訪問リハビリテーションを担当するセラピストが連携し、T-Supportを活用することで治療効果が得られた症例について報告します。

対象は先ほどの演題で梶川がご紹介しました、左片麻痺を呈した60歳代の男性です。
訪問リハビリでの目標は獲得した歩行能力を日常生活に汎化させることでした。
しかし、自宅退院後、歩容は2動作前型から3動作揃え型となり、歩行安定性の低下、歩行時のクロートゥ出現など回復期に獲得した能力が全体的に低下する傾向にありました。

なぜ在宅生活においてこのような症状が出現したのでしょうか?
本症例は屋内移動を車いすから介助歩行へと切り替えることを目的に、自宅内での歩行練習を行いました。
自宅内の歩行スペースは非常に狭く、入院時のようにストライドを伸ばした歩行動作を行うことが難しい状況でした。
その結果、徐々に揃え型歩行となり、結果的に異常筋緊張の亢進などの症状が出現したものと考えました。

そこで、トレーニング方法を検討し直し、動作練習に加え、セラピスト介助によるリズミカルな前型歩行を再度実施することで、自宅退院後に現れたこれらの能力低下を改善できるのではないかと考えました。

歩行能力の変化を評価するため、自宅敷地内での歩行動作をゲイトジャッジシステムを用いて評価しました。
評価指標は屋外5m歩行時の歩行速度、ステップ数、ターミナルスタンスでの足関節背屈角度の平均値としました。
またゲイトジャッジシステムの筋電図ユニットを用いて、麻痺側下腿三頭筋の筋活動の状態をモニタリングしました。

こちらがトレーニング変更前の歩容です。
歩行速度が0.20 m/s、ステップ数は22歩、足関節背屈角度は4.0°でした。
また麻痺側下肢の立脚期から遊脚期への切り替え時に動きが停止するため歩行速度が低下していました。
下腿三頭筋の筋電図波形を見ると、立脚・遊脚の切り替えが不鮮明で、常時筋収縮が見られていました。

これに対し、T-supportを装用した歩行トレーニングでは歩行速度が1.04m/s、ステップ数が7歩、足関節背屈角度が6.1°でした。
またリズミカルな立脚期と遊脚期の切り替えが可能となり、下腿三頭筋の筋活動も立脚期に収縮し、遊脚期に休息が見られました。
以上の評価から、T-Supportを装用した歩行トレーニングを継続して実施しました。

T-supportを装用した歩行トレーニングを週2回・1ヵ月間、継続して行った結果です。
四脚杖歩行が2動作前型歩行に改善しました。
数値においても歩行速度が0.27m/s、ステップ数18歩、足関節背屈角度は8.3°とトレーニング変更前よりも増大しました。
またトレーニング変更前は常時筋活動が見られていた下腿三頭筋も、遊脚期の休息が見られるようになり、歩行時の著明なクロートゥも軽減しました。

考察です。
本カンファレンスの主要なテーマである、装具を通した連携というテーマを中心に考えます。
当院は退院後に訪問リハビリを利用する症例において、回復期担当スタッフと訪問担当スタッフが共同で症例のADL場面を観察する機会を設けています。
また退院後に訪問スタッフが回復期病棟のスタッフに向けてカンファレンスを開催し、退院後の現状をフィードバックしています。
こうした連携は、更生用装具の使用方法や退院後のトレーニングにおける課題設定などをイメージしやすくなるため、回復期病棟スタッフと訪問スタッフの双方にとって、非常に重要であると考えています。

本症例においても、連携を行ったことで、訪問スタッフが、回復期入院中のトレーニング内容や、できるADLとしての歩行能力を把握していたため、在宅での歩行能力低下に対して、T-supportを活用するという発想に繋がり、迅速かつ適切な対応が可能となったものと考えました。

最後に、
在宅の歩行トレーニングにおいては利用者の自宅に大掛かりな治療機器を持ち込むことは困難です。
しかし、T-Supportは軽量かつコンパクトで、電源を必要としないため使用場所による制約を受けにくく、在宅の歩行トレーニングにおいても病院の使用と同様な効果が発揮できると思われます。
今回の経験を通して、我々は在宅生活を送る脳卒中片麻痺者の歩行トレーニングにおいてもT-Supportの使用は歩行能力の向上を図る上で有用であると考えています。
14-3.兵庫2017 中谷
14-4.訪問リハで積極的にT-Supportを使用する。さらに家族さんにも使ってもらう。

よろしくお願いします。
ただいまより、T-Supportという歩行補助具を在宅生活を送る片麻痺者に継続的に使用したところ、歩行能力が向上した、という報告をします。

まずはじめに、みなさん、T-Supportという歩行補助具をご存知でしょうか?
おそらくご存じでない方が多いと思いますので、簡単に説明させていただきます。
T-Supportは、主に脳卒中片麻痺者の歩行トレーニング時に使用することで、治療効果を高めることが期待できる補助具です。
股関節屈筋をイメージしたゴムバンドが、麻痺側立脚期に伸長されることで片麻痺患者さんの歩行を変化させます。
我々のこれまでの研究で、装着により自力歩行可能な脳卒中片麻痺者の腓腹筋活動を増大させ、歩行速度が向上する、ということが明らかになっています。
実際に当院で使用している場面をごらんいただきます。

この患者さんは左片麻痺で、短下肢装具と四脚杖を使用して歩いていますが、麻痺側下肢にゴムバンドを装着することで、股関節伸展を促し、歩行速度を向上させ、良質な歩行トレーニングが可能となっています。
もう一例、ご紹介します。

このように、セラピストの介助歩行時にも使用することで、従来よりもより操作性を高めた介助歩行が可能となります。
このように、我々は主に回復期病棟において、主に理学療法士が、主にトレーニング場面において、よりよい診療を可能とするために、T-Supportを使用しています。
ここまでが、研究の背景です。

そしてここからが本研究の目的です。
当院は162床の回復期専門病院ですが、訪問リハビリテーション専従スタッフがおり、必要性があると判断した症例では継続して在宅でのリハビリテーションを提供しています。
利用者のなかには、まだまだ機能回復の可能性の大会状況で自宅退院される方もおられ、時々、在宅でも継続的にT-Supportを利用することがあります。
本研究の目的は、生活期脳卒中片麻痺者が、T-Supportを継続利用した場合に、歩行能力にどのような変化があるのかを検証することです。

対象は、当院回復期病棟退院後に訪問リハビリテーションを利用している70歳代の左片麻痺者でした。
この動画は退院直前の杖歩行の様子です。
自力歩行可能でしたが、歩容は2動作揃え型で非麻痺側下肢のストライドの短縮が著明でした。
自宅退院にあたり、回復期病棟での担当から、訪問リハ担当へと、理学療法士が変更になります。
私はここが最大のチャンスだと考えました。
アプローチ方法を変更する良い機会だと思ったからです。

この症例が自宅退院した直後の様子です。
当然ですが自宅でも、見事な揃え型歩行です。
そして、右側の動画、本症例にT-Supportを装着すると、前型歩行が可能となっていることがわかります。

本症例は、訪問リハビリテーションでのトレーニングが週に2回ありましたので、その際にはT-Supportを装着した歩行トレーニングを実施しました。
また夫に対し、T-Supportの装着方法および装着下での介助方法をお伝えし、1日に1回、T-Supportを装着した状態で自宅での歩行トレーニングを行っていただきました。

約5か月間、自宅でT-Supportを使用した結果です。
前型歩行が可能となり、左右の立脚時間の対称性もずいぶんと向上した印象を受けます。

自宅退院直後と、約5か月後の比較です。

本症例はゲイトジャッジシステムを利用して歩行因子を測定しておりましたので、そのデータを見てみます。
左は立脚終期の平均背屈角度です。
自宅退院後、より前型が可能となり、背屈角度が増大しています。
また立脚終期の足継手の底屈制動モーメント、いわゆるセカンドピーク、これはプッシュオフの際の足関節の底屈運動を反映していますが、こちらも時間の経過とともにより強い底屈運動が可能になったことがわかります。
これらの変化は、
(アニメーション)
T-Supportを在宅生活において使用することで、前型歩行が可能となり、しっかり足関節を動かした歩行動作が可能となったことを表していると思われます。

考察です。
片麻痺患者さんの歩行トレーニングでは、可能な限り、歩行速度を向上させることが重要であることは、それが最終的にQOLの向上につながることからも自明です。
そして歩行速度を向上させるためには、前型歩行を可能とすることが重要となります。

前型歩行を可能にするには、麻痺側立脚終期にかけて、股関節伸展位をとる必要があります。
その際、腸腰筋が遠心性収縮を行い、ゆるやかに股関節にブレーキをかけることで、股関節伸展位の保持を可能とします。
T-Supportのゴムバンドは、この立脚終期の腸腰筋の働きを補助するものです。
これまで我々は主に回復期病棟入院患者の治療的介入においてT-Supportを使用してきましたが、今回の症例を通して、在宅生活を送る片麻痺者においても、継続的な利用により治療的効果を期待できるのではないかと感じました。
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プロフィール
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Tomoki Nakatani - 所在地
- 兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
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- 理学療法士です。
Certificated physical therapist in Neurology
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- I am interested in physiotherapy for improvement of gait ability of a patient with stroke hemiplegia.
And I'm a member of Japan Physical Therapy Association stroke guideline crew.
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