キャリアラダーについてまとめてみた


img_20170310-111703.jpg
ではここからは、実践報告、という形で、キャリアラダーのお話をさせていただきます。

img_20170310-121401.jpg
話を始めるにあたり、まず私が何者で、誰に向かって、何の話をするのか、を明確にしておきたいと思います。

img_20170310-121408.jpg
私は医療法人尚和会療法部で研究開発部門長という役職に就いておりまして、尚和会のセラピストの能力・資質を向上させる、ということを主たる職務としています。
本日は、研究開発部門長として、

img_20170310-121414.jpg
尚和会のセラピストに対して、

img_20170310-121420.jpg
キャリア開発の話をしようと思います。
なぜこういったお話しをするかと申しますと、

img_20170310-121425.jpg
来年度以降、尚和会療法部の教育研修体制が大きく変わります。
ですから、本日の内容は、尚和会療法部の皆さんにとっては、実際に自分の働き方に直接影響のある話なので、非常に重要です。
また尚和会の他部署の方々、あるいは尚和会以外の医療関係者の皆様方におかれましては、我々が今から取り組もうとしている内容を通して、ご自身の職場における教育体制についてちょっと振り返る時間となればいいな、と考えております。
では早速本題に入ります。

img_20170310-121430.jpg
なお、本日の講演内容は、結構ハイペースで飛ばしていきます。
メモしてる暇があんまりないと思うんですね。
とういことで、スライドと読み原稿はすべて宝塚リハビリテーション研究会のホームページもしくは、私が個人で運営しているホームページ、脳卒中の患者さんを上手く歩かせる方法を理学療法士が一生懸命考えてみた、にて公開します。
すでに私のホームページにはこの内容をアップしてありますので、この時間はとにかく訊くことに集中していただければ良いかな、と思います。

img_20170310-121436.jpg
本日お話させていただきます内容は大きく3つですね。
一つは、セラピストにとってのキャリアアップって何だろう?というお話し。
二つ目に、キャリアラダーって何だ、というお話し。
三つ目が、キャリアラダー導入に向けて尚和会療法部はどんな準備をしているのか?という内容です。
特に前半部分は聞きなれない心理学用語などが多く出てきますが、なるべくわかりやすく説明したいと思います。
では本題に入ります。

img_20170310-121443.jpg
まず最初に、セラピストにとってのキャリアアップって何だろう?というお話しです。

img_20170310-121448.jpg
キャリア開発という概念がこの世に生まれたのは、1905年のアメリカです。
当時、アメリカは産業革命によって人々の仕事や生活環境が劇的に変化し、貧富の差が拡大していました。
その当時、職業指導に携わっていたこのフランク・パーソンズ、この人物は、元祖キャリアカウンセラーと呼ばれているそうですが、この人物が、何度も転職を繰り返す人々に注目し、その原因は技能不足ではなく、場当たり的な職探しをしていることが原因であることに気付いたんですね。
そこで、このフランクさんは、個人の特性と職業の特性が一致すると皆がハッピーになれるし、両者はマッチングさせてくべきだよねみたいな理論を編み出したわけです。
フランクの有名な言葉として、丸い穴には丸い釘を、四角い穴には四角い釘を、というものがあります。
まぁ言ってることは当たり前のことなんですけどね、この当たり前のことを真正面から論じたところに価値があります。
このように、キャリア開発という概念は、当初、職業指導による個人から個人へのアプローチという形でから始まります。
そしてこの考えをベースに、組織が積極的に、個人のキャリア開発のお手伝いをしようという流れがやはりアメリカで起こってきます。

img_20170310-121453.jpg
それは第2次大戦後のアメリカで、です。
このころ、戦争から帰ってきた、いわゆる復員軍人がどばっと公務員になりまして、組織運営の非効率性が問題になります。
その改善策として、連邦政府がCareer Development Programという言葉を使用したのが、組織による積極的な個人に対するキャリア開発の最初だと言われています。
この流れを受けて、民間企業などでも、社員のキャリアを積極的に実現させることで、組織にとって必要な人的能力を育成する、という流れができました。
これがキャリア開発のざっとした歴史です。

img_20170310-121458.jpg
最初に自己紹介をさせていただいた際に、私の職務は尚和会のセラピストの能力・資質を向上させることである、というお話をしました。
私はこの1年間の経験を通して、尚和会療法部という組織をもっと発展させてゆくために最も大切な視点はまさにこのキャリア開発の視点ではないかと感じています。
皆さんのセラピストとしてのキャリアアップをどうやって実現させるか、それを真剣に考えることで、組織の発展にもつながるはずです。
ですからこの時間は、セラピストにとってのキャリアの意味というものを突き詰めて考えてみようと思います。

img_20170310-121505.jpg
そこでまずは、キャリアというものについて、現在どのような理論が提唱されているのかを整理します。
キャリア開発というものがアメリカで生まれ、アメリカで発展してきた経緯を受けて、キャリアに関する研究というものは現在もアメリカ中心に発展しています。
現代のキャリア論に大きな影響を与えているのがこの3人です。
ダグラスホール、この方はプロティアンキャリアという考えを提唱しています。
ジョンクランボルツ、この方はプランドハップンスタンスセオリーという考えを提唱しています。
エドガーシャイン、この方はキャリアアンカーという考えを提唱しています。
キャリアラダー導入にあたっては、まずこの3人の理論をご理解いただく必要があります。

img_20170310-121510.jpg
まずみなさんはキャリア、という言葉にどのようなイメージを抱くでしょうか。
多くの方が、キャリアという言葉から、自己の能力を向上させて、ばりばり仕事をこなして、昇進して、昇給して…みたいな、キャリアウーマン的な、そんなイメージを抱いているヒトが多いかもしれません。
しかし、このキャリアの定義自体が、近年大きく変化してきているんですね。
その流れを作ったのが、ボストン大学のダグラス・ホールです。
ダグラス・ホールは、このいわゆる出世型と言いますか、おそらくキャリアという言葉から皆さんがイメージするキャリア、そのイメージをひっくり返したんですね。
地位や給料が上がることが成功ではなく、仕事を通して心理的成功を感じることが本当のキャリアアップだ、と提唱しました。
それは、1980年代のアメリカ社会において企業と組織の関係性が変化してくるなかで、個人がキャリアのとらえ方を変えてゆく必要があったことが背景となっています。

img_20170310-121516.jpg
このころアメリカでは、組織と個人の関係が大きく変化したんですね。
かつてのような雇用の安定を前提とした心理契約に代わって、貢献と利益による短期的な契約が台頭します。
この影響を受けて、個人が、その組織において上に上がってゆくことがキャリアアップである、ととらえることが難しくなってきます。
これを受けてダグラスホールは、

img_20170310-121521.jpg
プロティアンキャリアという考え方を提唱しました。
このプロティアンキャリアという言葉は本日のお話しでも最も核となる部分です。
プロティアンとは、ギリシャ神話に出てくる変幻自在の神様のことです。
所属する組織において昇進して、給料をたくさんもらって、周りから尊敬される、このような組織内での論理を中心としたキャリアではなく、本当に大切なことは、その個人が成長して、結果的に個人によって心理的に成功したと実感できる、それが本当に大切なことだ、と提唱したんですね。
現代社会は環境の変化が激しく、ひとつのキャリアビジョンにこだわり続けることが難しくなっている。
だから、キャリアアップという言葉のイメージから変えてゆかねばならない、というのが、ダグラスホールのキャリア論のベースです。

img_20170310-121527.jpg
ダグラスホールは、個人が継続的にキャリアを形成するには、環境の変化に左右されず、自分も常に変化していけるような姿勢が重要だ、と提唱しています。
これって、尚和会療法部で働く上でも大事ですよね。
尚和会療法部で働くということは、基本的に部署の移動があります。
部署の移動って、環境がすごく変わりますよね。
さらにもっと大きな枠組みで考えてみると、医療・介護の世界におけるセラピストとしての役割、社会が我々に期待するものは、これからどんどん変化してゆく。
その中で、皆さんはセラピストとしてのキャリアアップを考えなければならないわけです。
この環境変化に左右されずに柔軟なキャリアアップを図ることが重要であるという考えはダグラスホールだけが提唱しているものではありません。

img_20170310-121534.jpg
スタンフォード大学のジョン・クランボルツは、プランドハップンスタンスセオリーというものを提唱しています。
これは「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」というものです。
クランボルツは、社会的成功を収めた数百人のビジネスパーソンについてそのキャリアを調査しました。
すると、その約8割の人が「自分の現在のキャリアは予期せぬ偶然によるものだ」と答えたというんですね。
このことから、あらかじめキャリアを計画したり、計画したキャリアに固執したりすることは非現実的であり、すべきでないとクランボルツは指摘しています。

じゃぁキャリアアップを考えても無駄なのか、自然な流れに身を任せておけばよいのか。
そうではないんですね。
キャリアを積み上げてゆく上で、その8割が偶発的なことで支配されている、先のことはわからない。
先が見えないけれども、その偶然を、ステップアップ、キャリアアップの機会に変えてゆくように個人は行動できる、というのがクランボルツのキャリア論です。
これは私自身も非常に納得できるというか、まさにそうだと思います。

img_20170310-121540.jpg
私は2003年に理学療法士免許を取得しました。
最初に回復期リハというシステムを勉強したいと思い、回復期リハの原点である高知県の近森会に就職しました。
ところが配属されたのは救急病棟で、そこで3年間超急性期のリハを経験しました。
念願かなって4年目に回復期病棟に移動になり、そこで回復期とは何ぞや、ということを学んで、2008年に尚和会に移ってきました。
尚和会に所属して、9年たって、今私は病棟を離れて、学術・研究を中心とした仕事をしています。
この14年の経験のなかで、自分で計画的にキャリアを変更したのは、前の職場を退職して、尚和会に移ってきた、この1回だけですね。
それ以外のキャリアは自分で選んだものではありません。
いまここでこうやってキャリア理論について話をするという仕事も、1年前には全く想像していません。
でもこれらの点と点も、振り返ってみると、線となり、面となって、すべて自分のキャリアアップにつながっているように思います。
ですから、セラピストとしてのキャリアアップというのも、あんまりがちがちに、自分の専門性はこれだ、っていうのは決めつけない方がいいと思います。

img_20170310-121547.jpg
クランボルツは、この偶然に左右されながらも、キャリアアップを積むことはできる。
80%の偶然がプラスに働く人、それをステップアップにすることができるヒトとそうでない人には違いがある、と言っています。
その違いは5つあります。

img_20170310-121553.jpg
プラスに働く人には、
「好奇心」
「持続性」
「楽観性」
「柔軟性」
「冒険心」の5つの特性が備わっている、と言われています。
これら5つを備えている人は、ただ偶然を待つのではなく、積極的に行動して、自らのキャリアを作ってけるそうです。
そしてキャリアに関する心理学の研究者の多くが、同様なことを別な表現で言っています。

img_20170310-121559.jpg
最初に出てきたプロティアンキャリア提唱者のダグラスホール。
このダグラスホールは、環境変化に応じて柔軟にキャリア形成をするためには、
「アダプタビリティ」と「アイデンティティ」、この2つの能力が必要である、と言っています。
アダプタビリティというのは、変化に適応しようとする意志のことです。
これ、さっきの80%の偶然をチャンスに変えるヒトの特徴と一緒ですよね。
とにかくこれ、と決めつけるのではなく、柔軟に、前向きに考える。
そしてダグラスホールは、このアダプタビリティに加え、もう一つ、アイデンティティが大事だ、と言っています。
アイデンティティというのは、環境の変化に左右されない、自分の中での変わらない価値観のことですね。
柔軟な意志をもって、ぶれない価値観をもって、キャリアをつんでいけばよいのですよ、ということを、キャリアの研究者たちは言っているわけです。
ですから私は、これから尚和会療法部の教育・研修のシステムを構築するにあたって、みなさんのなかでこのアダプタビリティ、柔軟性と、アイデンティティ、治療者としての変わらない価値観をどうやって開発するか、その仕組みを真剣に考えるべきだと思います。
…ちょっとややこしくなってきたので、ここまでをまとめます。

img_20170310-121617.jpg
社会・組織構造の激しい変化の中で、キャリアビジョンが変化しています。
組織人としての個人がキャリアを積んでいくうえで、自身の成長が実感できるような柔軟なキャリア形成が必要です。
柔軟なキャリア形成を考える上で、必要な能力が2つあり、一つは好奇心や冒険心など、変化に適応する能力。
そしてもう一つが変化があってもぶれない自身の価値観。
この2つの能力を高めてゆくことが大事なんですね。

では、セラピストにとってのぶれない価値観って何なんでしょうか?

img_20170310-121623.jpg
ここで、エドガーシャインのキャリアアンカーが登場します。
エドガーシャインは、プロティアンキャリアを提唱したダグラスホール、プランドハップンスタンスセオリーを提唱したクランボルツと並んで、現代のキャリア論の世界で非常に大きな影響力を持った研究者です。
シャインは、個人のキャリア形成を考える上で、キャリアアンカーという考えを提唱しました。
「アンカー」は船の「錨」のことです。
キャリアを「遠洋航海」にたとえてみると、遠洋航海の途中でどんな寄港地(これはみなさんにとっては4事業所のどこに所属するか、ということになると思いますが)、どこにたどりつこうと、そこで自分の船の「錨」をおろすことで船は安心して停泊できます。
つまり、個人が組織でキャリアを積み上げてゆくうえで、異動や昇進によるキャリアの「旅路」がどんなものになろうと、自分の「錨」はずっと変わることなく、自分らしさを保つための「拠りどころ」として存在している、そんな意味合いが「キャリア・アンカー」にはあります。

img_20170310-121628.jpg
シャインが行った研究では、すべての職業人のキャリア・アンカーは8つの種類に分けられると言われています。
❶専門家として能力を発揮したい
❷経営者になりたい
❸自分のペースで仕事したい
❹安定した環境で仕事したい
❺発明家・芸術家・起業家
❻世の中を良くしたい
❼困難を乗り越えたい
❽仕事と家庭のバランスをとりたい、の8つに分かれると言われているんですね。

そして、シャインの理論では、仕事を始めたばかりの20代の頃は、キャリアを選択する上で、何が自分にとって重要なことなのか、また自分らしさが発揮できる仕事や職場とはどんなものなのかは、まだわかっていない、と言われています。
こうした価値観は、実際の仕事を通じて実感して作り上げられてゆくものだから、なんですね。
ほとんどの人にとって、自分の「キャリア・アンカー」がどんなものか、ある程度自覚できるようになるのは社会人になって5年以上経過してから、おおよそ30歳前後だと考えられます。
キャリアアンカーはシャインが作成した簡単な質問票を用いて、知ることができます。

img_20170310-121635.jpg
今回私は、尚和会のセラピスト128名を対象に、このキャリアンカー質問票を用いたアンケート調査を実施しました。
このアンケートを実施した目的は、もうおわかりになると思いますが、キャリア形成において重要な、アダプタビリティとアイデンティティのうちの、アイデンティティの部分、尚和会療法部のセラピストにとって、譲れない価値観が何かを知ることが、教育研修体制を構築する上で非常に重要だと考えたからです。
では、職種ごとに集計をした結果をご覧いただきます。
8つのキャリアアンカーのうち、比較的平均点数の高いアンカーと、低いアンカーに分かれました。

img_20170310-121641.jpg
まずはPTの結果です。
4つのアンカーが比較的高得点となりました。
平均点の高い順に、仕事と家庭のバランス、専門技術、社会的安定、社会貢献という結果になりました。

img_20170310-121647.jpg
OTの結果です。
仕事と家庭のバランス、社会貢献、専門技術、安定の4つのアンカーが高得点でした。

img_20170310-121652.jpg
STです。
STさんはもともと母数が小さいのですが、回収率も低かったので、これが尚和会のSTの平均的アンカーと言えるかは少し微妙なところですが、
社会貢献、専門技術、困難への挑戦、仕事と家庭のバランス、の4つのアンカーが比較的高得点でした。
これらをざっとまとめると、尚和会に所属するセラピストの平均的なアイデンティティーは、

img_20170310-121701.jpg
仕事と家庭のバランスをとりながら自己の専門技術を磨き社会に貢献したいひとたちが集まっている集団、ということが言えそうです。
ちなみに医療従事者の就労意識に関するアンケートでも、このシャインのキャリアアンカーを用いた報告というのは非常に多くみられます。
ネットでざっと検索してみても、看護師さんや介護福祉士さんのキャリアアンカー調査、というのは出てきますが、上位に上がるアンカーはだいたい同じような傾向にあります。
で、この結果を、療法部のセラピストの教育・研修にどう活かすか、というところが大事だと思うんですね。

img_20170310-121706.jpg
先ほども申しましたが、シャインによると、キャリアアンカーというものは職業に就いてから5~10年のキャリア初期段階の時期に開発されて行くと言われています。
今回のアンケート対象者の臨床経験年数の平均は、PT5.1年、OT5.8年、ST6年であり、尚和会療法部のセラピストのキャリアアンカーはまだまだ変化する時期であると考えられます。
ですから、

img_20170310-121712.jpg
尚和会療法部の教育・研修体制を考える際には、全体的にまだまだセラピストとしてのアイデンティティの固まり切っていないみなさんに対して、
まず、「尚和会療法部の求めるセラピスト像」、これが理想のセラピストなのだ、というものをしっかりと定義して、提示して、それに基づいた教育体制を構築することが組織としては大切だと考えています。

img_20170310-121718.jpg
ダグラスホールは、プロティアンキャリアの形成を促進する要因として、これら4つを備えた組織が理想である、と述べています。
まず、チャレンジできる場があること。
今まで取り組んだことのないような仕事や、少し難しい仕事に挑戦できる環境が必要とされます。
私は、4つの事業所がそろっている尚和会は、チャレンジできる場所がたくさんあると思います。
次に、師匠、指導者が存在すること。
これについては、管理者教育を強化する必要があります。
3番目は、学びの場。
これは教育・研修体制ですね。まさに今から構築しようと考えているところです。
そして最後は、内省。
何か仕事をしたら、『その仕事の中で自分がどんなことを学んだのか』を振り返りなさいという意味です。
これは内藤先生にもご講演いただいた、学術活動の促進ということになると思います。
こうしたことの一つ一つを実現するために、私は、キャリアラダーが必要だと考えるわけです。

img_20170310-121724.jpg
ここからが後半ですね。
みなさんにより良いキャリアアップを実現してもらうために、キャリアラダーというものを導入しようとしています。
ただ、現状ではまだ準備を始めた段階です。
それも一部の管理職内で方向性を一致することができた、という状況です。
ですが、特に尚和会のセラピストのみなさん、このラダー導入という流れはほぼ決定していますので、ラダーとは何ぞや、というところは、ぜひ今日を機会に知っておいてください。
まず初めに、このキャリアラダー、クリニカルラダーという言葉の意味から説明します。
キャリアラダーをいち早く教育に用いているのが看護業界です。

img_20170310-121731.jpg
看護の世界では、キャリアラダー、もしくはクリニカルラダー、とも表現されます。
クリニカル、というのは臨床、ラダーというのは梯子、という意味です。
直訳すると、臨床における梯子、という意味ですね。
これを最初に提唱したのはカリフォルニア大学のパトリシア・ベナーです。
このベナーは「医療従事者の技能が上達するとはどういう段階を踏むのか」ということを学術的な見地から整理しまして、この理論をベースに、看護師の看護実践に必要な能力を段階的に提示したらええんちゃうか、と提唱したんですね。

img_20170310-121738.jpg
すでにこのラダーを用いた教育システムは、多くの医療機関で看護職の教育システムにおいて導入されていまして、現在日本看護協会は、施設ごとのラダー、この内容やレベルがばらばらの状態のものを、すべての施設、すべての看護師に共通するものとして編纂しなおす、という作業に手を付けているんですね。
看護師さんは教育という部分で我々よりもずいぶん先を進んでいる印象を受けます。

img_20170310-121743.jpg
で、このラダーを導入しようという機運は、セラピストの世界でも徐々に高まりつつあります。
全国リハビリテーション医療関連団体協議会という組織があります。
これは、PT協会、OT協会・ST協会、日本リハ医学会、訪問リハ協会、デイケア協会など関連10団体が集まって、リハビリテーションに関連する職種の社会的な地位の向上のために行動している団体です。
この協議会の人材育成部会が2016年7月に『キャリアアップ指標』の導入を提案してるんですね。

img_20170310-121750.jpg
これは見ていただくとわかりますが、キャリアラダーです。
これは新人から2年目くらいを想定したラダーです。
臨床実践能力、対人能力、研究能力など、いくつかのカテゴリーについて、何ができて何ができていないかを明確にしよう、というものですね。

img_20170310-121756.jpg
ラダーシステムを導入するということが従来のやり方とどう違うか。
端的に言うと、熟達段階ごとに到達目標を設け、成長のプロセスを可視化する、というところです。
個人の成長を見えるようにする。
私は、尚和会療法部は、特に、このラダーシステムの導入が必要だと考えています。
なぜか。

img_20170310-121801.jpg
これは、尚和会療法部の歴史です。
医療法人尚和会が設立されたのが1967年。
来年度、記念すべき50周年を迎えます。
開設当時、大室病院にPTOTは居ませんでした。
初めてPTが誕生したのが1985年です。
その10年後、1995年に堤部長が入職して、この時点でもPT2名です。
それから20年以上が経過して、現在尚和会のセラピストが130名前後に膨れ上がっています。
組織を構成するメンバーが大所帯であればあるほど、教育というものは見えるようにしないといけないんですね。

img_20170310-121808.jpg
霊長類学者のロバート・ダンバーという研究者が、人間は一体何人とまでお友達になれるか、という研究をしています。
結果、「人間が形成できる群れの大きさ」は、大脳新皮質の機能的な限界から、150人である、ということが明らかになっています。
一つの組織の構成員が150人を超えると、お互いを明確に識別することができなくなって、その組織のパフォーマンスが悪化するのだそうです。
この、ヒトの組織は150人が限界という発見は非常にインパクトがあって、ダンバー数、と言われています。

img_20170310-121814.jpg
このダンバー数を裏付ける実例はたくさんあって、世界中の狩猟・採集社会の村落の平均人口は148.4人だそうです。
150人以下であれば、規範なしでも同じ目標を達成することができる。
また最新の通信ツールを使用する現代の戦闘部隊の構成員も、絶対に150~200人を超えないそうです。
つまり人間の集団で、コミュニケーション不足が起きる臨界点が、150人なんですね。
似たような、面白い話をもうひとつ。

img_20170310-121819.jpg
スポーツウェアなどによく使われている防水繊維のゴアテックスを製造しているアメリカのゴア・アソシエイツ社。
転職率は業界平均値の三分の一で、35年連続で黒字を続け、数千人の従業員を擁する10億ドル規模の会社です。
ゴア社が成長できたのは、『150の法則を忠実に守ったからである』って、創業者のゴアさんが言っているんですね。
起業の成長に合わせ、事業所の従業員は当然増えていきますが、社員の数が150になると必ず人間関係がぎくしゃくし始めることに気付いたんだそうです。
そこで、工場ごとに従業員のリミットは150人というのが社のルールにしています。
工場には、150台分の駐車スペースを用意して、駐車場がいっぱいになりはじめたら、新しい工場を建設する。
一つの工場を大きくしたり、2交代制などにせず、150以下の小集団で働くことにこだわり続けているそうです。

つまり、一つの集団は150人以下であれば明確な規範が無くても同じ目標に向かうことができる。
150人を超える場合は、その集団において、明確な規範やルール、価値観を共有する努力が必須であると言われています。
尚和会療法部が130名、その数は今後も増えてゆきます。
この状況で必要なことは、教育に関して考えると、キャリアラダー、ということになるんですね。

img_20170310-121824.jpg
ではキャリアラダーを導入するために、尚和会療法部はこれから何をしようとしているのか。
結論からいうと、まだまだ実際の動きというのは、始まったばかりで、これから、という状況ですが、すでに準備は始めています。

img_20170310-121830.jpg
これは尚和会のセラピストの皆さんには出張報告という形で以前お伝えしました。
富山県の八尾総合病院というところが、セラピストの教育においてクリニカルラダーを導入しておられて、学術的な検証などもしておられるので、去年私が視察という形で現地に行かせていただきました。
八尾総合のセラピストさんとはこれがきっかけで仲良しになりまして、先日は宝塚リハビリテーション病院の視察に来られています。
懇親会でのなまなましい記憶が残っているスタッフも数名いると思いますが…
すでにラダーを導入している八尾総合のみなさんのお話しでは、やはり教育を見える化することで、管理する側、される側とも非常にわかりやすくなった、というお話でした。

img_20170310-121835.jpg
また、キャリアラダー、クリニカルラダーを上手く運用するためには、管理職も必死に勉強する必要があります。
これまで私を含めた尚和会の各部署の管理職はキャリアマネジメントについての体系的な知識を持っていませんので、ラダー導入に向けて、管理する側としての勉強を、セミナーへの参加などを通して行おうとしています。

img_20170310-121840.jpg
さらに、このあたりはまだまだふわふわした状態ですが、キャリアラダーの準備委員会を立ち上げる予定です。
おそらく来年度中には具体的に動き始めるはずです。
あ、ここに書いてある文言は、看護業界の、ラダー作成マニュアル、みたいなものに書いてある内容で、まだ尚和会療法部の具体的な動きとは関係ありません。
ただ、これに派生してというか、さらにさかのぼって、キャリアラダー準備委員の親委員会として、

img_20170310-121846.jpg
療法部に教育委員会を立ち上げよう、というプランがあります。
この内容については、堤部長の方から『まだ予定、ということにしておいて』と言われていますので、あんまりしゃべりません。
ただ、キャリアラダー導入に向けて、どんな準備が必要かいろいろ調べてみると、今日私がお話ししたようなキャリアに関する教育が必須ですし、実際の作成には徹底的にグループワークを行う必要があります。
ですから、このあたりをマネジメントするためにも、療法部教育委員会、という組織が生まれるはずです。
良く考えてみると、これまで施設間の垣根を越えて教育について考える機会がほとんどなかったんですよね。
ラダー導入をきっかけに教育委員会ができるということは、尚和会療法部にとってはすごく良いことじゃないかと個人的に感じています。
このように、ここから数年で、尚和会療法部の教育体制というものが、大きく変化します。
今日は、4月から尚和会に入職する予定の学生さんにも参加していただきました。
人数が増えることで、コミュニケーションが難しくなる部分が確実にありますが、ラダーシステムを中心に、しっかりとした教育体制を構築して、教育の分野でも尚和会が日本のリハビリテーションを引っ張ってゆけるようにみんなで面白い仕事をしましょう。

img_20170310-121851.jpg
これが最後のスライドになります。
今回、この内容での発表にあたって、キャリアに関する書籍、資料にたっくさん目を通しました。
よく出てくるのが、キャリアの語源とは、って話なんですね。
キャリアの語源は、英語の馬車「キャリッジ」だと言われていまして、馬車が走った跡のわだちを意味していると言われています。
そこから、人がたどってきた足跡、経歴なども意味するようになったそうです。
当然ですがわだちは馬車が走った後にできます。
自分が歩んできた道のりをふりかえったとき、そこにはそれまで自分の馬車が刻みつけてきた轍が残されている。
人生の終焉まで馬車は歩み続け、そこに轍というキャリアができるのです。
講義の前半でも繰り返しお話ししましたが、キャリアはあらかじめ考えた通りに、きっちり予定通りに積み上げるものではありません。
どんなチャンスが待っているかわからない。
とにかく目の前の仕事に、チャレンジ精神をもって、ぶれずに、こつこつと積み上げて行く。
ある時点でふと自分のやってきたことを振り返り、「あぁ、これが自分のキャリアだったんだ」と認識するのが本来の意味のキャリアです。
繰り返しますが、わだちは走る前にはできません。
いつの日か、みなさんが、尚和会でセラピストとして働いてきた道のりをふりかえったとき、そこで経験したたくさんのことが、すばらしいわだちとして残っているように、そうなれるように、これから療法部の教育研修体制を変えてゆきます。
そしてこの第1回宝塚リハビリテーション研究会学術集会での私のこの講演が、すばらしいわだちづくりの始まった一つのきっかけであったな、といつかそう思ってもらえたら最高だな、と思っています。
以上が私の講義内容です。
 

プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
中谷知生

Tomoki Nakatani
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

Certificated physical therapist in Neurology

自己紹介
I am interested in physiotherapy for improvement of gait ability of a patient with stroke hemiplegia.
And I'm a member of Japan Physical Therapy Association stroke guideline crew.

ブログ

12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930

blog

8月 2026年9月 10月
12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930

ライフログ

12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数