T-Support
ヒトとサルの最大の違いは何か

ヒトとサルの最大の違いは何か。
それは、ヒトが2足歩行動物である、という点にあります。
この図はヒトとサルの歩行姿勢の違いです。人では立位では重心線が股関節の中央もしくは後方を通るため、直立位を保持できるようになっています。
では直立二足の姿勢の安定性は何によって保障されているのか?
直立位を保持するものとして、大腰筋の働きがもっとも大きいと言われています。ここで留意するべきことは、大腰筋は抗重力筋であるということです。
つまり赤筋であり、持久性に乏しく、血液が多量に供給される必要があるということです。ちなみにサルの大腰筋の赤筋比率は26%、ヒトの大腰筋の赤筋比率は48%と言われています。この違いは、ヒトの大腰筋が直立姿勢を保持するための筋としての機能分化を担っていることの証だと言われています。
まあこれはまんま吉尾先生の資料から引っ張ってきてるんですけれども。
君は理学療法診療ガイドライン第1版を見たか?
あ、すいません。
ちょっと偉そうな表現になってしまいましたが。
私の周囲のセラピストの反応がもうひとつなんですよね。
ちなみに私はこの手のガイドライン的なものは大好きなもんで。
で、私がまず目を通したのは当然脳卒中理学療法診療ガイドラインです。
班長が千里リハの吉尾先生でして。
自称吉尾マニアの私はドキドキしながら読み進めてたわけです。
そこで衝撃的な文章が!
装具療法 推奨グレードA エビデンスレベル2
肩から足部まで弾性ストラップでつないで制御する新しい装具の使用により,装着直後にエネルギー消費が減少し,歩行速度と歩幅が向上した。3 週間の装着後,さらにエネルギー消費に改善が見られた25)。
gait pattern using a new orthosis in persons with long-term stroke. Aroh Phys Med
Rehabil 88: 181-186, 2007.
どうやらその弾性ストラップでつないで制御する新しい装具とは、このCV Aidなる商品らしい。
あ、そうそう、最近このホームページにようやく動画を張り付けられるようになったんで、CVAidの動画を見てもらいましょう。
まずは装着していない状態。
で、この方がCVAidを装着するとどうなるか。
うん、そりゃまぁ良くなるだろう。
むしろこの方が普段どんな装具で歩行しているのかが気になるところですが。
でもね、これ、しつこいようですが私にとっては非常に衝撃的な内容でして。
何故かと言いますと、現在川村義肢の藤本さんと、これに似たような歩行補助具を作成して、その効果検証をしてる真っ最中なんですよ。
その名も
T-Support
ですよ。
以下に、私とT-Support の関係を述べたいと思います。
T-Support とは何ぞや?
…賢明な読者ならもうお気づきでしょう。
TはTrunkのTであり。
TはtakarazukaのTであり。
TはTomokinのTである!!!
あ、トモキンというのは長年私がハンドルネームとして使用しているとてもかわいらしい愛称なんですね。
まぁ、本名がトモキ、で、ハンドルネームがトモキンというのももう少しひねったほうがいいかと思いますが。
ただしこのT-Supportという名称はまだまだ未定着であり、一緒に作成していただいている川村義肢の藤本さんも、なかなか口にしてくれない、まだまだそこかしこに甘酸っぱさを大量に含んでいる名称なわけです。
でね、まぁ宝塚とか、トモキンとか、そんなのはどうでもいいっちゃぁどうでもいいんですよ。
大事なのはやっぱりTrunkをサポートする補助具である、ということです。
体幹機能をサポートすることで、長下肢装具装着下で代償動作や過剰努力が出現してしまう症例がとっても楽ちんに歩けてしまうというのが特徴。
もう少し具体的に言うと、大腰筋の機能を補って、正常なアライメントで股関節伸展位をとることで自然なスイングを作り出せるという優れものです。
来年名古屋のPT全国学会で発表するんで、また楽しみにしておいてください。
T-supportのベースとなった人工大腰筋について
さて、そのT-supportですが、いろいろ試行錯誤して開発中なんですね。
初期段階では、体幹機能のサポートはせずに、大腰筋のサポートだけをしようと考えて、腰ベルトと股関節屈筋補助バンドから構成される補助具を作成していました。
これは私が勝手に『人工大腰筋』と呼んでいたわけです。
まぁ当然のことですが、やっぱりですが、当たり前ですが、一緒に作成・開発していただいた川村義肢の藤本さんは一度も『人工大腰筋』というキーワードを口にすることはなかったんですけれどもね。
まぁこれはこれで効果ありましたよ。
この効果については、2012年11月に名古屋で開催された義肢装具学会で発表しました。
そちらをご参照ください。
さてそこで CV Aid の話に戻るわけだが
で、その人工大腰筋の改良中に、例のCV Aidなる装具の情報を入手したわけです。
文献の内容から、どうも我々が開発しようとしている物とかぶるところが多いように感じるわけです。
CV Aidの動画を見た感想を述べてみる
あ、ちなみにCV Aid の動画は↓でご覧いただきたい。http://www.cvaid.nl/
これが噂のCV Aid ですよ。
私の感想としては…うんまぁ何というか。
未装着でトレッドミルを歩いてる動画では、下肢装具を装着してない状態なので、足部がグラグラしちゃってます。
で、装着して歩いてみると、そりゃまぁ確かに歩行パターンは良くなるわけですよね。
クリアランスが良くなって、体幹の側屈なんかも減少して。
でもこれだけじゃぁ何とも言えねぇなぁ。
装着下でのトレッドミル歩行の関節の運動も、それほど良い運動には見えないような気がするし。
みなさん、どう思います?
そこでT-Supportの登場ですよ
さあここで、T-Support の効果を見ていただきましょう。
これ、長下肢装具を装着して、自己にて上手くスイングできない患者さんの、ゲイトジャッジの画像です。

この患者さんに、T-Supportを装着します。
どうですか?
まず、赤い線、足関節底屈モーメントにおいて、セカンドピークがしっかり立ち上がるようになっていることがわかります。
これはなぜか。
ターミナルスタンスにおいて股関節が伸展し、足関節背屈位となったことで、ストレッチショートニングサイクルが機能したんですね。たぶん。
青いグラフは、下に行けば行くほど股関節が伸展しているということを示します。
T-support装着により、股関節伸展のレンジが大きく拡大していることがわかると思います。
これが私の考えるT-supportの効果なんですね。

これ、2013年の理学療法学術大会で発表しようと考えているデータの一部です。
T-supportの装着の有無による、10症例のターミナルスタンスでの股関節伸展角度の違いです。
殆どの症例で股関節伸展が増大してるのがわかります。
なぜ股関節伸展角度が増大するかと言いますと、多くの患者さんは、随意性の低下した下肢をスイングさせる上で、できれば股関節を伸展させたくないんですね。
伸展させることで、スイングしにくくなる可能性があるから。
でもこのサイトでも繰り返し述べてきましたが、股関節は伸展したほうがいいんですよ。
その方が大腰筋がストレッチされて、自然にスイングできるんですよ。
けど多くの患者さんは、何とか頑張ろうとする。
随意的な筋収縮で前に振り出そうとする。
それが結果的に痙性を高めてしまうことにもつながると私は考えています。
もっと楽に振り出せるんですよ。
体幹伸展して、股関節を伸展して、上手く重心移動をすれば、がんばらなくても麻痺側下肢が前に出てくるんですよ。
それを覚えてもらうための道具が、T-support なんです。
これがT-Support の全容だ!
さて、先日のこと。
当院には時々ダイワハウスのロボット事業部門の方々が来られるわけです。
無論、例のHALのデモのためです。
でね、でね、そのダイワハウスのヒューマン・ケア事業推進部のスタッフの方々が、
『T-Support を見せてほしい』
と言ってこられたんですよ。
ダイワハウスのスタッフの方々も、このホームページを見ていただいているようです。
で、無論T-Supportを披露しました。
そういえば、先代の『人工大腰筋』の画像は上で公開しましたけど、 T-Support につ
いては公開してなかったですね。
ここで画像をのっけてみましょう。

当院のスタッフで撮影してみました。
ちなみにこれはT-Support2号機です。
1号機はもっとペラペラだったんですが、内貼りがついてよりゴージャス&ラクジュア
リーな感じに仕上がってます。

後ろから見ます。
なぜ後方にもベルトが付いてるのか、例のcv aidを最初にネットで見た時は不思議でした。
だって股関節屈曲をサポートするのに、この部分は不必要なんじゃないかと思ったもんで。
けどこれ、体幹のサポートと言う意味ではやはりあった方がいいみたいですね。

股関節伸展させるとこういう塩梅です。
T-Supportの画像、こんなんです。
まぁしかし、自分の創意工夫した結果がカタチになって、それにヒトが興味持ってくれるというのはうれしいもんですよ。
来年の名古屋での理学療法全国学会で詳細は発表します。
T-Supportを装着したら筋活動がどう変化するのか?
って、いつも思うんですよ。
だってねぇ、そんなバンド装着して、引っ張っちゃって。
それじゃぁただゴムで引っ張ってるだけなんじゃないかって。
トレーニングになってないんじゃないかって。
あ、ここだけの話ですが、このT-Support、まだボキの職場である宝塚リハビリテーション病院でも、普及してません。
これが大好きなのはボキだけと言ってもいい状況でしょう。
それはなぜかと考えてみると、やっぱりこの、筋収縮をダメにしてしまうんじゃないかと
いう懸念があると思うんですよね。
でね、面白い文献を見つけました。
2012年11月開催の第39回日本臨床バイオメカニクス学会。
ここで京大の塚越累氏が
『ホンダ製歩行アシスト装置が歩行動作および下肢筋活動に与える影響』
という発表をするそうです。
このホンダ製歩行アシスト、ボキ、以前から密かに注目してまして。
以前川村義肢で大畑先生がデータ収集してる様子を拝見しに行ったときに、これを患
者さんに装着していろいろ試してたんですよね。
あ、ちなみにリズム歩行アシスト、見たこと無い方のために、こんなんです。


モーターで歩行をアシストする。
ホンダのアシモの技術を利用してるとかなんとか。
でね、その抄録なんですが。
【目的】
リズム歩行アシスト装置は、歩行時の股関節の屈曲伸展運動を補助するトルクを付加することによって歩行障害者の歩行の改善を目指すものである。今回、我々は歩行障害者への適応に先立つ基礎的研究として、歩行アシストが健常者の歩行動作および筋活動に与える影響を調べた。
【方法】
健常者17名(男性9名、平均年齢25.1歳)を対象とし、歩行アシスト装着下での自由歩行時の三次元歩行解析と筋電図解析を行った。歩行アシストが発生させる股関節へのアシストトルクは、屈曲・伸展方向とも同量とし、0Nm、2.5Nm および6Nm とした。三次元動作解析装置および床反力計を使用し、歩行時の関節角度と内的モーメント(M)を測定した。また、表面筋電図を使用し、右側の大殿筋、中殿筋、大腿直筋、外側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋およびヒラメ筋の歩行筋活動を調べた。筋活動量は最大等尺性随意収縮を100%として正規化し、それぞれ立脚相と遊脚相の平均値を算出した。各測定項目をアシスト条件間で比較した。
【結果】
歩行速度と歩行率はアシストによって有意に上昇したが、歩幅は変化しなかった。股関節においてはアシストによる初期接地期の屈曲角度の有意な減少と立脚後期の最大伸展角度の有意な増加が認められた。また、遊脚期の最大膝屈曲角度および立脚期の最大足背屈角度もアシストによって有意に増加した。内的Mでは、立脚後期の最大股屈曲Mと遊脚後期の最大股伸展Mが有意に増加し、立脚後期の最大膝伸展Mと最大足底屈Mにも増加が認められた。筋活動では、遊脚期の大腿二頭筋の活動減少が認められ、その他の筋ではアシストによる変化は無かった。
【結論】
歩行アシストは筋活動の増加を伴うことなく股関節の運動範囲の拡大とモーメントの増加を引き起こし、それに付随して膝・足関節の運動を変化させることができる。その結果、主に歩行率の上昇を通じて歩行速度を増加させうることが明らかとなった。
って内容です。
これ、ええこと書いてあると思うんですよ。
マシンで歩行時の股関節の動きを制御する。
その結果、股関節伸展の運動範囲が拡大して、筋活動量に著明な変化は無かった。
無論、ホンダの開発したマシンと、T-supportが生体にまったく同じ効果があるなんて言いきれませんが。
でも、まぁ似たようなもんでしょ。
だから、T-supportを積極的に使用して、患者さんに楽に歩いてもらって、しかも股関節伸展角度を増大した運動を学習してもらいたんですよ。
そこのあなた、T-supportがほしくなってきたでしょ?
T-Supportについてまとめておこうか
PTは己のハンドリングテクニックに溺れすぎる。
長下肢装具を装着し、麻痺側下肢のスイングが上手くできない場合。
患者さんにどうやって良い運動を覚えてもらうか。
どうやってリラックスして歩いてもらうか。
それを考えると、あんまりPTがべたべた触るんじゃなくて、体幹と大腰筋の機能を少しだけサポートするような補助機器があればそれでいいんじゃないか、ってことです。
無動力の歩行支援機について
無動力歩行、って聞いたことあります?
ボキは最近聞きました。
大畑先生の講習会で紹介されていまして、その時の動画にちょっと衝撃を受けました。
で、ネットで検索してみると、いろいろ出てきます。
名古屋工業大学の佐野明人という先生が開発しているらしい。
ちなみにこの先生の専攻は機能工学だそうで。
この先生が無動力の歩行支援機の開発をしておられるそうなんですね。
これが面白い。
ただ、調べれば調べるほど、ロボット工学とか、機械工学の話が出てきて、ややこしくなってくるわけです。
でも、T-supportとなんだかどこかでつながってるような気がするんですよね。
だからちょっと勉強してみようと思うわけです。
受動歩行とは
無動力の歩行支援機を考える上では、まず、『受動歩行』という概念を理解する必要がありそうなんですね。
で、受動歩行で検索してみると、いろいろな情報が出てきます。

この画像はようつべで拾ったもの。
下り坂のトレッドミル上で、一人で歩いておりますわ。
受動歩行の原理を、某サイトから抜粋してみました。
・受動歩行とは、文字通り受動的な歩行のこと。
・能動的なアクチュエーターによるエネルギーの入力や、複雑なモデルベースの制御を行なわなくても、機構を工夫して初速を与えるだけで脚を交互に振り出して、ゆるやかな斜面を降っていくことができる。
・うまく工夫すると、重心を制御するために常に脚の膝を曲げて歩行しなければならないZMP制御のロボットよりも、まるで生物のように自然に「歩く」ことができる。
・エネルギー効率に優れていることが特徴で、働いている力は重力だけである。つまり「倒れない」ように歩いているZMP制御に対して、受動的動歩行は「倒れる」ことを利用して歩いているわけだ。
・現象そのものは1800年代から知られていたが、まだその原理はよく分かっていない。
…とのこと。
あんまり深入りすると、だんだんわけがわからんことになるので深入りするのはやめときます。
でね、話を戻しますが、名古屋工業大学の佐野先生が、この受動歩行の原理を応用した歩行補助具をすでに開発している!

ひょっとしてこれってすでに有名な話だったりするわけですか?
ボキが知らなかっただけなのか?
歩行支援では、受動歩行の歩行原理に基づいた無動力の2 重振子で、下肢の歩行リズムを整えてくれるそうです。
で、佐野先生はこの歩行支援機の特徴として、
- 最も自然な(エネルギー効率が高い)歩き方を再現
- 物理的に軽いので、人の体への負荷が少ない。
- (動力付のものと比べて)安いコストで製作が可能。
などなどの特徴を紹介しておられるんですね。
うん、これはなんだか、T-supportの目指すべき方向が見えてきた気がするんだよね。
ちょっと引き続き調べてみようと思うのです。
詳しい人が居たら教えてください。
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- 0207 神戸西支部さま
- T-Supportに関する学会発表一覧
- 1.T-Supportが完成するまでの研究
- 2.T-Support装用時の力学的な変化についての研究
- 3.T-Support装用時の筋電図変化についての研究
- 4.T-Support装用時の歩行因子の変化についての研究
- 5.T-Supportの弾性バンドの伸長に関する研究
- 6.T-Supportによる長下肢装具の膝の固定解除に関する研究
- 7.T-Supportが効果を発揮する条件に関する研究
- 8.T-Supportを装用した走行動作に関する研究
- 9.T-Support使用時にケツにパッドを用いる研究
- 10.T-Supportの継続利用に関する研究
- 11.T-Supportと他の歩行補助機器の効果比較に関する研究
- 12.T-Supportの伸長と聴覚刺激の併用に関する研究
- 13.T-Supportを使って3人4脚したらどんなことが起きるか、って研究
- 14.在宅生活でT-Supportを使ってみた
- 15.T-Supportが整形外科疾患の患者さんの歩行動作に及ぼす影響に関する研
- 16.T-Supportの弾性バンドを3本使ったら何が起こるか?に関する研究
- 17.歩行コンテストという試み
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- キャリアラダーについてまとめてみた
- 観察による歩行分析Basic&Advance 2012に行ってきた
- WCPT2017で発表してきた
プロフィール
- ニックネーム
- 中谷知生
Tomoki Nakatani - 所在地
- 兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
- 職業
- 理学療法士です。
Certificated physical therapist in Neurology
- 自己紹介
- I am interested in physiotherapy for improvement of gait ability of a patient with stroke hemiplegia.
And I'm a member of Japan Physical Therapy Association stroke guideline crew.
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