ゲイトソリューション

img_20120306-132453.jpg さて、ここではゲイトソリューションに関する文献を集めていこうと考えているわけです。

ゲイトソリューションに関する文献と言いましても、まぁちょっと検索しただけでたくさん出てくるわけですが、その中でも私の独断と偏見で、臨床に役立ちそうな文献や資料をここにまとめてみようという試みなわけです。


短下肢装具の足関節継手の有無により歩行能力にどのような影響を与えるのか

まず何といってもゲイトソリューションといえば山本澄子先生なわけで。

山本先生の文献をここでひとつ。

山本澄子先生が何を考えてゲイトソリューションを開発したのか。


最初に紹介するのは、

『バイオメカニクスから見た片麻痺患者の短下肢装具と運動療法』
2012年の理学療法学、240〜244ページ。
この文献の冒頭部で、従来のAFO の問題点と、ゲイトソリューションを使用することのメリット、ゲイトソリューションの構造なんかが非常に簡潔に述べられてて、とってもわかりやすい。

・AFO を2種類に分けると

AFOは継手無しと継手つきに大別されます。

継手無しAFO での歩行はAFO無しと比較して、歩行速度、麻痺側単脚支持期、歩幅が増加し、両脚支持期が減少します。

一方、継手つきAFO では歩行速度、ケイデンス、歩幅、麻痺側立脚期、麻痺側足関節背屈角度が増加します。

継手無しと継手つきAFO を比較すると、継手無しAFO では立脚中期の足関節背屈角度を阻害し歩幅が短縮するのに対し、継手つきAFOでは踵接地とプッシュオフが改善するなどの報告があります。

これらのことから、継手つきAFOの方が歩行補助に適していると言われることが多いんですね。

そんなこんなでAFO は臨床でも数多く使用されるわけですが、実はAFO に対するエビデンスレベルは低い、というのが現状なんですね。

2003年、国際義肢装具連盟は『片麻痺者に対する装具療法』というタイトルのコンセンサス・カンファレンスを開催しました。

ここでは世界的に認められている学術誌に掲載された研究論文を吟味して、エビデンスのレベルについて評価が行ったんですが、1990年から2003年の間に『片痺+AFO 』で検索された41件の論文を評価した結果、勧告のレベルBが得られたのは、『継手つきAFO は歩行速度とケイデンスを改善する』という内容だけだったそうです。


・片麻痺者の歩行におけるAFO の機能とは

片麻痺者の歩行におけるAFO の機能は、立脚期の安定確保、つま先離れを容易にする、正常歩行パターンに近づける、とされています。

これらのうち、正常歩行パターンに近づけることに関しては、関節角度など身体の局所的な動きを正常パターンに近づけるのではなく、身体全体の動きを改善して、効率の良い歩行を目指すことと考えられる、と山本澄子氏は述べています。


ここは非常に重要な部分だと思います。

理学療法士は、往々にして、関節だけを見つめちゃうんですよね。

そうじゃなくて、身体全体の動きを改善することで、歩行動作を正常なパターンに近づけることが大切だ、ということ。


じゃぁ歩行における正常なパターンとは何を指すのか?


『正常歩行の特徴として広く知られているもののひとつに立脚期のロッカー機能がある。健常者は立脚期に4つのロッカー機能を持ち、立脚初期には踵、中期には足関節、後期には前足部からつま先を軸として、身体全体が前方に回転していくとされている。多くの片麻痺者を対象とした歩行計測の結果から、片麻痺者のためのAFO に必要な機能で重要なのは、立脚初期の踵ロッカーを補助する機能であることが明らかになっている。つまり、歩行中の踵接地からつま先接地にかけて、制動をかけながらの足関節底屈をAFO が補助し、制動の強さを使用者の状態に応じて調整する必要がある』

そこで、山本澄子氏らは油圧ダンパーを足継手に組み込むことにより必要な機能を満たすAFO ・ゲイトソリューションを開発したんですね。

『従来のAFO は内外反だけでなく底背屈方向にも足関節の動きを制限することが多く、運動療法の妨げになると言われることもあった。しかしゲイトソリューションは足関節の動きを許しながら歩行中に必要な最低限度の補助を行うものである』


これ、シンプルですがとっても奥の深い言葉だと思うんです。

ゲイトソリューションは歩行中に必要な最低限度の補助しか行わない。

だから、我々理学療法士がゲイトソリューションを使用するとき、ただ装着すれば良いというものではないんですよね。

従来のAFO に比べ、関節の動きを制限しない。

だから、普段のトレーニング時からロッカーファンクションを意識した動作練習を継続して行わないと、ゲイトソリューションの機能を活かしきれないわけです。


・ゲイトソリューションの構造

ゲイトソリューションは、歩行時のロッカーファンクションの改善を目的に開発されたAFOです。

その構造は下の図のようになります。

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ゲイトソリューションの足継手には油圧ダンパーが組み込まれ、足継手が底屈方向に動いたときには油圧ダンパーの効力が発生して底屈の動きを制動します。

制動の強さはダンパー上部に取り付けたねじによって調整することが可能です。

足継手の背屈方向への動きは抵抗無しに自由に動きます。

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この図は歩行中のゲイトソリューションの働きです。

ヒールロッカーでは踵から接地し足継手が底屈する際に油圧ダンパーの効力によって急激なつま先接地を防いでなめらかな接地を可能とします。

アンクルロッカーでは足継手は自由に背屈します。

踵が離れた後のフォアフットロッカー以降に足継手は再び底屈しますが、その際に油圧ダンパーの制動によって過剰な底屈が抑えられます。

このようにゲイトソリューションはヒールロッカーとフォアフットロッカーの補助を行いますが、アンクルロッカーについては力による補助は行いません。


・ゲイトソリューションにより歩行時の重心がどう変化するか

1名の片麻痺者を例として、3次元動作解析装置を使用した歩行分析によってゲイトソリューションによる歩行の変化を見てみましょう。

対象者は77歳男性、脳梗塞による右片麻痺、下肢のブルンストロームステージ、計測時は発症から12か月、屋内屋外ともに歩行自立でした。

ここでは歩行時の重心の高さと関節モーメントのデータを示します。

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まずはこれが健常歩k行の重心移動です。

健常歩行では単脚支持期で高く、両脚支持期で低い、サインカーブに似た波形を示します。

左右の立脚期で重心が上昇するのはロッカーファンクションが働いていることを示しています。

また、健常歩行では両脚支持期は歩行周期の約10%で、短い期間であることがわかります。


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一方これが片麻痺者の装具無し歩行です。

両脚支持期が長く、麻痺側立脚期で重心が殆ど上昇していません。

反対に非麻痺側の立脚期の重心上昇が大きくなっています。

非麻痺側立脚期の過剰な重心の上昇は、麻痺側のぶん回しによるものです。

麻痺側立脚期に重心が上がらないのはロッカーファンクションが働いていないことを示しています。


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これは対象者がゲイトソリューションを装着して2週間目の結果です。

ゲイトソリューションを使用することによって、左右の差は残るものの、麻痺側立脚期の重心が上がるようになり、両脚支持期も短くなっていることがわかります。


このことから、ゲイトソリューションの機能は主にヒールロッカーの補助であるが、適切な補助により立脚中期の足関節ロッカーも改善していることがわかります。


・ゲイトソリューションにより歩行時の関節モーメントがどう変化するか

では同じ症例で、歩行時の関節モーメントの変化をみてみましょう。

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横軸は初期接地を開始とする歩行1周期です。

縦軸の関節モーメントは内部モーメントで、伸展・底屈が+です。つまり、グラフの波形が+の領域にあるときに伸展筋・底屈筋が働き、−の領域では屈曲筋・背屈筋が活動していることを示します。

この図のように、健常歩行における関節モーメントは複雑な波形であり、各関節の波形は+と−が交互に出現しています。

すなわち、健常歩行では1歩行周期という短い時間内で伸展筋と屈曲筋の切り替えが頻繁に起こっているということです。

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これに対して、片麻痺者のAFO無しでの歩行では、振幅が小さいだけでなく関節モーメントの波形が単純であり、股関節と足関節は常に+、膝関節は常に−の領域にあります。

このことから、片麻痺者では筋活動の切り替えを行わずに歩行していると考えられます。

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そこでゲイトソリューションを装着してみると、波形の振幅は健常者より小さいものの、+と−の波形が交互に見られるようになります。


すなわち、ゲイトソリューションは立脚初期のヒールロッカーにおける足関節背屈モーメントの補助しか行っていないが、これによって立脚期全体の筋の働きが改善されることがわかります。


・ゲイトソリューションを使用した歩行練習を行うとどんな効果があるのか

ゲイトソリューションの効果とゲイトソリューションを使用した歩行練習の効果をあきらかにすることを目的とした研究結果を紹介します。

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対象者は10名の維持期片麻痺者であり、外来において週に1〜3回の理学療法士による治療を受けていました。

研究では、まず対象者の歩行を3次元動作解析装置によって計測し、その後、ゲイトソリューションを装着して5〜10分程度の歩行練習を行いました。

この間、対象者の歩行を理学療法士が観察して適切な底屈制動の強さを設定し、ゲイトソリューションを装着した状態で歩行計測を実施しました。

その後、対象者には3週間、日常的にゲイトソリューションを使用してもらいました。

この間、理学療法士による週に1〜3回の歩行練習をゲイトソリューションを装着したままの状態で実施しました。

歩行練習の中ではゲイトソリューションを装着してできるだけ膝を伸ばして踵から接地することを促しました。これは、ゲイトソリューションのヒールロッカー補助の機能を活用するためです。

3週間後に再び、ゲイトソリューションを装着した状態での計測を実施しました。


その結果、時間距離因子、重心、床反力、足関節まわりの角度と関節モーメントの結果が得られました。

膝関節と股関節まわりの項目については有意差が見られませんでした。

ゲイトソリューションの使用によって歩行速度、非麻痺側ステップ長が増加し、前遊脚時間が減少しました。

足関節角度についてはゲイトソリューションの使用によって初期接地、前遊脚期、遊脚期の角度が背屈方向に変化しました。

特に注目すべきは、3週間の歩行練習後の変化として、重心の高さと麻痺側最大立脚角度、最大底屈モーメントが増加したことです。

これらはいずれもアンクルロッカーの状態を示す項目であり、ゲイトソリューションによるヒールロッカー補助によりアンクルロッカーの改善が見られたことを示しています。

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これは対象者の足関節底屈モーメント最大値と歩行速度の関係を表しています。

横軸が足関節モーメント、縦軸が歩行速度です。

右肩上がりの点の分布は底屈モーメントの増加にしたがって歩行速度が増加していることを示しています。 

2人の対象者以外では3週間の歩行練習で底屈モーメントの増加と、それに伴う歩行速度の増加が見られました。


このことより、片麻痺者の歩行では、ゲイトソリューションの使用のみでなく、ゲイトソリューションを使用した歩行練習によって歩行が改善することが明らかになっています。

ゲイトソリューションを使用し、筋電位の計測を行った研究では、底屈を止めたAFOで出現した立脚初期の底屈筋の伸張反射がゲイトソリューションの歩行では抑えられた、という報告があります。ロッカー機能の観点から考えると、立脚初期の底屈制動は歩行補助のために重要であり、これは片麻痺者だけでなく、様々な歩行障害に対しても同様と考えられます。

ある程度のダイナミックな歩行を目指す場合には、立脚初期の底屈制動は必要な機能ではないかと考えられます。

そのためには底屈制動の機能を活かした運動療法のノウハウの蓄積が不可欠なのです。

ゲイトソリューションの特徴 開発者の安井氏の語ってること

ここでは、POアカデミージャーナル(2012年No4)に記載されていた、GS開発者の安井匡氏の文章を紹介します。

【シリーズ:パーツ紹介】

って記事で、ゲイトソリューションデザインの機械的特性に焦点を当てて紹介しておられます。


・油圧による制動とバネによる制動の違いとは

・GSの特徴はイニシャルコンタクトからローディングレスポンスにかけての足関節底屈の動きに対して油圧により制動をかけることで、ヒールロッカーを実現することである。

・従来の下肢装具は、シューホンやクレンザックに代償されるバネ弾性(たわみ)を利用して底屈の動きに制動をかけるが、これは動きと力が比例の関係にあるため動き始めは力が小さく、最大底屈した時に一番力が大きくなる。そのため、健常者と同じタイミングでイニシャルコンタクト直後の前脛骨筋の遠心性の働きにより発生している大きな制動力を発揮できない。また、最大底屈時は本来大きな筋活動が無いタイミングで最大の力が発揮されるため、この力を発揮するタイミングのずれが下腿三頭筋などの代償動作を生み出す。

・GSの最大の特徴は、速度の2乗で力を出すことである。イニシャルコンタクトに一番速度が大きくなり、油圧により制動をかけることで速度が落ち、最大底屈した時点では底屈から背屈の動きになるため、速度がゼロになる。このバネ弾性では不可能な特徴により、理想的なヒールロッカーが可能となる。


これはゲイトソリューションを使用するセラピストにとっては非常に重要な事項だと思います。


・ゲイトソリューションの油圧設定はどうあるべきか

引き続き、POアカデミージャーナルの安井氏の論文から、油圧設定の考え方について抜粋します。


GSは油圧シリンダ内の油の流れ具合を弁により調整することで、制動力を変化させる。

弁を全開にした場合は抵抗がなくなり、弁を完全に閉じれば固定となる。油圧1が制動が無い状態、油圧4がほぼ固定の状態である。

GSとGSDは形状が違うため、GSの2.5とGSDの3が同等の力が出ていると考えると良い。
GSDの場合、重心が後方に残らず正しいイニシャルコンタクトができる場合は油圧2.5程度、後方に重心が残っている場合は油圧3の設定を目安にすると、ヒールロッカーに必要な力を引き出すことができる。
この初期値を中心に体重や活動度に合わせて歩容を確認しながら調整を行う必要がある。

・ゲイトソリューションの適応外の状態とは 

安井氏はこない言うたはります。


油圧設定値を4で使用する症例においては、使用方法が間違っている可能性が高い。3を参考に、使用方法について再度見直し、重心を前上方へ上げることができない場合は、GSの使用を中止する必要がある。

また油圧を1から2程度の柔らかい設定にしている場合も注意が必要である。柔らかい設定においては、ヒールロッカーに必要な力は発生しておらず、GS単体では重心を上げうることができない。そのため、十分に前脛骨筋の活動が回復していない場足は重心が持ち上がらず、結果として重心が後方に残り過度な足関節底屈から油圧シリンダが底付きし、最悪の場合GSが破損する可能性がある。

基本は回復に合わせて油圧を下げて装具の制動力を小さくしていくことであるが、油圧2以下の設定をする場合は、底付きに注意が必要である。

筋の活動が回復してきた場合、回復した筋の活動により制動をかけることができれば、油圧にかかる速度は遅くなり、必然的に制動力も小さくなるため、急いで制動力を小さくする必要はない。


…このあたり、私は全然守れてないです。

ガストロの緊張の高い患者さんなどで、油圧4なんかでどんどん歩いてます。

もう何なら油圧5とか6があったらいいのに、と思ってしまいます。

けどその場合は、普通にダブルクレンザックを使ったらいいのかな。

そのあたりは少し検討してみよう。


長下肢装具のゲイトソリューションの使い方についての文献

2013年の日本義肢装具学会誌、29巻1号はまるごと一冊長下肢装具祭りでした。

これは非常に読み応えのある内容でした。

その中でも、p35〜41、横浜市立脳血管医療センターの萩原章由氏の

『底屈制動機構付き長下肢装具の可能性』

という論文が非常にわかりやすかったです。

・底屈制動機構を持つ長下肢装具はどういう経緯で生まれたのか

横浜市立脳血管センターは脳卒中専門病院である。

1999年の開院以来、立位歩行練習用に多種の長下肢装具・短下肢装具を備えており、その中には山本澄子らにより開発された、DACS AFOや、横浜市立脳血管センターで独自に支柱型に応用した長下肢装具(DACS KAFO )も含まれていた。

開発当初は底屈制動機構をもつ長下肢装具を利用した歩行練習は手探り状態であったが、それまでの歩行練習で使用してきた足継手を固定する場合や、底・背屈制限による角度制限では得ることのできなかった歩行獲得への可能性を患者とセラピストはともに感じることができた。

底屈制動機構付き装具での治療経験を積む中で、2003年に完成したゲイトソリューションの共同開発の中でゲイトソリューションの長下肢装具が試作され、臨床で使用するようになった。

底屈制動機構付き長下肢装具は現在も当センターでは脳卒中片麻痺患者の歩行再建における治療用ツールとして重要な位置を占めている。

現在、全国の多施設でゲイトソリューションの長下肢装具(GS-KAFO)の治療経験が広まりつつあることは感慨深い。

しかし、臨床経験の少なさから、我々が使用を始めた当時と同様に、戸惑いや底屈制動機構を上手に利用できないことなどが散見される。


…いやぁすげえなぁ。

長下肢装具のGSの開発から関わったんですよ。

その使用が広まっていくことが感慨深いんですよ。

こんな格好いいことが言える立場になってみたい。


・歩行再建に向けた歩行練習のポイント

 底屈制動機構付きKAFOの適応やその意義に論を進めるにあたり、脳卒中片麻痺に対する歩行再建に向けた歩行練習のポイントについて説明する。

ペリーは歩行中の身体を機能的にパッセンジャーとロコモーターの2つのユニットに分類し、その関係性を次のように述べている。
『パッセンジャーユニットのアライメントはロコモーターユニットの筋活動に影響を与える。ロコモーターユニットの筋活動によるアライメントは、パッセンジャーユニットのバランス(アライメント)に影響を与える』
つまり2つのユニットは相互に影響を及ぼしているため、バイオメカニクスの視点から合理的で効率的な歩行を考えるにあたって、この相互関係を無視する事はできない。
我々は歩行練習を組み立てる場合、パッセンジャーユニットは歩行時重心が上下左右方向に動きながらも、直立位のアライメント(バランス)を維持できるように、そしてロコモーターユニットは筋活動による下肢・骨盤の強調した動きやアライメントを調整できるように、装具療法と運動療法の双方向から考え、2つのユニットの相互関係を構築できるように進めることが重要と考えている(図2)。
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脳卒中片麻痺では、運動麻痺や異常筋緊張による筋活動の弱化やアンバランス、感覚障害などさまざまな要因により、歩行時の姿勢や歩容はパッセンジャーユニットでは左右非対称性や前屈位が見られ、またロコモーターユニットでは内反尖足によるつま先接地、膝折れ、反張膝、骨盤の麻痺側への後退などアライメントの崩れが互いに悪影響を及ぼし合い、さらに崩れた相互関係を形作っていると言える(図3)。

このため当センターでは、歩行練習の準備としてパッセンジャーユニットの筋緊張や筋活動を調整することなどによる対称性の獲得やバランスの強化を実施している。また、歩行練習では長下肢装具を用いる場合、足継手の角度設定やベンチ・スタティック・ダイナミックの3つのアライメントを調整することで下肢のアライメントを整え、歩行練習時に筋活動の弱化やアンバランスを考慮しながら誘導を加え、2つのユニットの相互関係の再構築をはかり歩行の再獲得を目指している。


…パッセンジャーとロコモーターが互いにどう影響するか、とっても分かりやすい文章だと思います。
後半、パッセンジャーユニットの筋緊張の調整による対称性の獲得やバランスの強化、という話については、もう少し具体的な内容を知りたかったかも。
どっちかと言うと、当院ではあらゆる手段を用いて、まずはダイナミックアライメントの調整をどう学習するか、という部分からのアプローチがメインになってるものですから。

・底屈制動機構付きKAFOの適応とその意義
KAFO の適応基準として、石上らは重度弛緩性麻痺、重度感覚障害、半側空間無視、反張膝、膝折れ、下肢屈曲パターンが優位、膝関節変形拘縮がある場合が適応であると述べている。
(中略)
当センターは急性期からリハビリテーションを行っていることもあり、その経過を通して変わりゆく病態や歩容の変化を予想することができる。
われわれが装具を利用する目的は急性期から歩行獲得に向けて、長下肢装具から短下肢装具へ、装具なし歩行へと可能性をつなぐ装具療法であり、長下肢装具を使用する対象は前述した適応基準より範囲は広いと考えている。
機能の改善を目的に、治療の経過の中で一時的に長下肢装具を利用し、体重移動や荷重時の筋活動のタイミングを促通するために利用することもある。
したがって、体重移動や荷重時の筋活動のタイミングが学習されれば、長下肢装具から裸足歩行へと治療展開する場面も少なくない。
立位・歩行練習で使用しているDACS・GS-KAFOの最大の特徴は、前述したパッセンジャー・ロコモーターユニットの相互関係の構築を考慮した歩行練習に効果を発揮する点である。
装具により膝継手の自由度を制限することで膝折れや反張膝を制限した中で、足関節と股関節の協調した動きを引き出し、体重移動を通して歩行練習できる可能性がある。
裸足歩行での膝折れ現象の多くは立脚初期から中期にかけて生じ、反張膝や膝ロッキングは立脚中期以後に生じる。
麻痺側立脚初期の荷重とともに膝が屈曲し、非麻痺側の振り出しにあわせて膝の伸展が見られる。
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このようなロコモーターユニットのアライメントの崩れの影響は、パッセンジャーユニットの前傾(股関節屈曲位での支持)、骨盤後退として表れる場合がある。
つまり制御できていない膝関節の影響はロコモーター・パッセンジャーの両ユニットに影響を与える。
膝関節は足関節、股関節の中間に位置しているため、足・股関節の両方からの制御が影響している。
下肢の支持性が低く、各関節の制御が難しい場合は、膝関節に関しては動きを制限しながら足関節、股関節の協調性を高めることから始めるのが肝要である。
底屈制動機構付きKAFO は底屈制動力を調整できる点で足関節の底屈の動きを止めた底屈制限の場合より有利な点がある。
底屈制動力を調整することで初期接地から荷重応答期での装具のアライメントが底屈制限に比べて適切に保てる可能性がある。
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つまり底屈制動機構付き足継手の利点は、底屈方向に制動をかけつつ、同時に装具の大腿カフが大腿後面を押す力を調整できる点である。
踵接地から足底が接地するまでの踵を軸としたヒールロッカーでは、装具は底屈方向に制動をかけながら大腿後面を押す力で下肢を前方へ回転させる。
底屈制動力を調整することで下肢の前方回転運動を調整できることになる。
底屈制限では底屈制動力が非常に大きいと考えることができ、特に股関節伸展筋群の筋活動が弱化している片麻痺者の場合、初期接地から足底接地までに装具の大腿カフが大腿後面を押す力により、下肢はほぼ垂直近くに前方回転させられる。
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その急激なロコモーターユニットのアライメントの変化は、立脚相でのパッセンジャーユニットの前傾(股関節屈曲)を生み出す。
また、その影響は非麻痺側初期接地まで前方への体重移動が滞っていることからもわかる。
装具の大腿カフが大腿後面を押す力を調整できる底屈制動では足底接地の下肢のアライメントが底屈制限より後傾している。
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股関節伸展筋群の弱い活動と大腿カフの大腿後面を押す力との兼ね合いから適切なアライメントが生まれ、弱い筋活動を伴いながら股関節を立脚中期の直立したアライメントまで伸展する。この弱い筋活動によるタイミングの良い荷重を伴う股関節伸展運動が、立脚期を通じて足関節の底屈から背屈への運動の切り替わりのきっかけとなる。
この股関節と足関節の協調した動き、つまりロコモーターユニットの協調的な動きが、パッセンジャーユニットのバランスを保持しやすくし、前方への体重移動を実現している。
また、我々は長下肢装具の足継手の底屈制動と底屈制限の違いが歩行に与える影響について、力学的視点から比較した研究からも、底屈制動の方が床反力作用点や重心が前方へスムーズに移動していること、の結果を得ている。
したがって、股関節伸展筋群が弱化している症例ほど、足関節と股関節の協調した動きを引き出せるように底屈制動力を調整すること、タイミングよく股関節伸展筋群を働かせることで、2つのユニットの相互関係を構築しながら、体重移動ができる点で底屈制動機構付きKAFOは治療用ツールとしての利用価値が高い。




…あ、最後の5行、ええこと言ったはりますよ。
思わず字をでっかくしてみました。
ここまでの流れは非常に論理的で、抜粋する余地もない素晴らしい文献です。
この後、この論文では『歩行練習の実際』という内容に移っていくわけですが、これについては私の方法論とはちょっと異なってくるので、これは割愛します。
興味のある方は是非とも日本義肢装具学会誌29巻1号をご参照ください。


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ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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