診療ガイドラインの大切さについてまとめてみた

診療ガイドラインの大切さについてまとめてみた

私、診療ガイドライン、大好きなんです。
我々がお仕事を進める上で、こんなに大切で、こんなに便利なものはないでしょ?
というわけで、自分の職場で毎年研修をしてるんですけどね。
なかなか難しいですね。。。
伝えるって本当に難しい。
毎年毎年、これなら何とか伝わるんじゃないか、と思いながらやってるんですけどね。
スライドを作り直しているんですけど。
毎年徐々に良くなってきていると思うんですけど。
とりあえず、2017年度版をここに公開してみます。
何かの参考になれば…と思いまして。

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今日は診療ガイドラインの活用、というテーマでお話しします。
ここ数年、毎年診療ガイドラインのお話しはみなさんの前でさせていただいてますが、私の印象では、まだまだ皆さんに診療ガイドラインというものの意義というか、それが我々の日々の診療行為とどれくらい深い関わりがあるか、ということがまだ正確に伝わっていないように思います。
私は今年度より、日本理学療法士協会の理学療法診療ガイドラインの作成班に就任しまして、現在診療ガイドラインというものについて改めて勉強しなおしている最中です。
その中で改めて診療ガイドラインに対する認識というか、その重要性を理解しつつあるという状況です。
それは具体的に言うと、診療ガイドラインはただ目を通すだけじゃなくって、我々がきっちり活用することによって、我々の診療行為をもっと良いものにすることができる、ということです。
そこで本日は、私が最近勉強したその辺のことをまとめてみましたので、お話ししたいと思います。
テーマは、『診療ガイドラインを活用しませんか?』です。

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本日の研修会の対象と目標です。
対象は、EBMとか診療ガイドラインとか聞いても自分とはあまり関係ないように思っている、診療ガイドラインを全く読んだことが無い、診療ガイドラインを手に取ってちょっと目を通したけど面白くないから辞めた…ぐらいのヒトをメインターゲットにしています。
具体的な学習目標は3つあります。
1つめ、EBMってどういう意味だったかを確認します。
2つめ、 患者さんにとっての医療情報の大切さについて整理します。
そして3つめはEBMにおける診療ガイドラインの活用法をご紹介します。
その結果、みなさんが今日の晩、何らかの診療ガイドラインを読んでみようかな、という気持ちになれば、この研修会は成功だと思っています。

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まずはじめに、EBMってどういう意味だったか、確認しましょう。
診療ガイドラインを我々が活用するためには、その前提として、EBMという言葉の意味や意義をしっかり理解しておく必要があります。
これにより、我々医療従事者にとっての診療ガイドラインの意義もよりクリアになると思います。

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で、いきなり話が少し脱線するんですが、みなさんエビ固め、っていう技を知っていますか?
レスリングの技の一つです。
一方の手で相手の首の後ろを巻き、他方の手でひざの後ろを巻いて、相手のからだをエビのように曲げながらフォールする、という技です。
まぁこんなことはどうでもいいことなんですね。
このエビ固め、という言葉は、医療業界では全く違うニュアンスの言葉になります。

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医療におけるエビ固めとは、エビデンスを最優先して、それを患者さんに押し付ける、あるいは自分の見つけてきた論文のエビデンスをベースにして、他者の診療を否定する、論文のなかでもRCTを信奉する、などなど、ただただ研究によって得られた、明らかにされたエビデンスだけを重視する態度をとるヒトのことなんですね。
こういうヒト、あなたのまわりにもいませんか?
こうした態度は、エビデンスベースという言葉の意味を誤解したことによるものです。
そしてエビ固めがあるということは、反対の意味の逆エビ固め、という概念もあります。

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一般的に逆エビ固めとは、プロレスの技の一つです。
倒れている相手の足を両脇で抱え込み、そのまま裏返して馬乗りになり、足を反り返らせて締め上げ相手の腰や背中にダメージを与える技。
シンプルですが、腰だけでなく胸部も圧迫されるので効果は絶大である、とされています。
まぁこのことはやっぱりどうでもいいんですが、医療においても同様に逆エビ固め状態のヒトがいると私は思います。

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医療における逆エビ固めとは、エビデンスの重視は患者の個別性を軽視する行為だと思っていたり、エビデンスを重視することは医療従事者の臨床経験を軽視することになると思っている人々のことです。
こうした考え方も、やはりエビ固め同様、誤解によるものです。

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つまりエビデンスだけで臨床判断を行おうとすることも、エビデンスでは患者さんの個別性に対応できないという考え方も、どちらもEBMに関する誤解から生じているわけです。

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そもそもEBMとは、「最新最善の科学的根拠」「患者の価値観や意思」「患者を取り巻く環境」「治療者の技術」これら4つを統合することで行われる医療行為、であると定義されています。
ここで大事なことは、EBMというものは決して抽象的な概念ではなく、具体的な行動や判断の基準を示した実践的手法である、ということです。
ここをまだ勘違いしているヒトが多いんじゃないでしょうか。
非常に大事なポイントなので繰り返しておきます。
EBMというのは、概念ではなくて、実戦的手法、行動様式のことです。
EBMというと、どうしても最新最善の科学的根拠、という部分のイメージが先行しているかもしれませんが、それは1つの構成要素に過ぎないんですね。
つまりエビデンスはEBMを遂行する上での必要条件ですが、十分条件ではない、ということです。
大切なことは、特定の治療法や検査方法が有効であるというエビデンスを踏まえながら、医療者自身の臨床技術や経験と、患者さんの嗜好や思いをどう組み合わせていくかということです。

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私は主に回復期で脳卒中片麻痺患者に対する下肢装具療法を中心に研究していますので、それを例にお話ししてみます。
ここに1人のセラピストがいて、片麻痺の患者さんを担当することになりました。
担当患者さんの歩行能力を向上させるにはどうしたらいいかを調べます。
すると、近年様々な研究により、脳卒中片麻痺患者の歩行能力を向上させるには、早期から下肢装具を用いて歩行量を確保することが有効であるというエビデンスが確立されつつあることがわかりました。
よし、じゃぁさっそく主治医と川村義肢に連絡して、下肢装具を作ってみよう!

…という臨床判断は、いわゆるエビ固めですね。
エビデンスだけで治療方針を決定してはいけません。
そもそも目の前に居る患者さんは歩けるようになりたい、歩行練習をしたい、と思っているでしょうか?
その病院には下肢装具を使用してスタスタ歩くような治療環境が整っているでしょうか?
下肢装具を作ったとして、担当のPTはその装具の持つ治療効果を引き出すだけの治療技術を持っているでしょうか?
持っていないなら、それを指導してくれる指導者が居るでしょうか?
もし使いこなせない環境にあるのだとしたら、いくら装具を用いた歩行トレーニングに高いエビデンスがあるとしても、装具療法を選択することは最適解ではないかもしれません。

現在、リハビリテーションの臨床判断を行ううえで、これら個々の臨床判断は概してセラピストが独善的に、勝手に決定しがちです。
これって問題ありますよね?
そこをしっかり考えて治療しませんか、というのがEBMの考え方なわけです。

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EBMというのは、概念ではなく、実践的手法だ、というお話をしました。
ではここで具体的に、研究開発部門長という立場の私が普段、EBMという手法を用いた装具療法をどう進めているかを説明してみます。
私は何かしらの治療法を患者さんに適応するにあたって、最初にすることは、それが例えば装具療法であれば装具療法に関する最新の科学的根拠を入手します。
エビデンスベースですから、ここでしっかり根拠のある情報を収集するのは当然ですね。
けどそれだけで終わってはいけません。
入手した最新のエビデンスを当院の患者さんに適用できるかどうか吟味します。
多くの患者さんがその治療をしたいと思っているのか。
それが患者の価値観・意思ですね。
そして患者を取り巻く環境。
自分が調べてきた論文などで成果があったとされている患者さんと比べて、当院の患者さんの障害の程度、発症からの時期がどの程度近いのか。
また自分の職場がそのエビデンスを同じように発揮できるような環境なのか。
研究開発部門長としては、それは具体的には備品の長下肢装具を購入を検討したり、あるいは早期に下肢装具を作成できるようなカンファレンスの体制を整えたり、あるいは新しい歩行補助具の導入や開発を検討することがメインになります。
そして最終的にそれらを現場のセラピストが上手く患者さんに運用できるように、セラピストの技術指導をしたり、こうやって研修会を開いて皆さんの能力向上のお手伝いをする。
これら一連の行為がEBMなんですね。
そういう意味では、皆さんも意識する、しないに関わらず、普段の業務においてEBMに取り組んでいるということが言えると思います。
繰り返しますが、EBMというのは、最新の論文を読むだけではない、ということをまずは認識してください。

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一つ面白い論文をご紹介します。
これは2011年のRCTです。
内科病棟に入院した809人の患者を対象に、朝のカンファレンスで上がった患者の疑問に対して、介入群では文献検索を行なって、疑問を解決するような論文を主治医チームの全員にメールで知らせます。
対照群は通常通りに診療します。
その結果どんな変化があったか?
死亡やICU入室に至ったケースの比率、再入院の比率、入院期間などは両群で全く差がありませんでした。
ただし、経験豊富な指導医が情報を得ていた場合は,死亡やICU入室に至ったものの比率が有意に減少したんです。
この研究から言えることは、情報をたくさん仕入れて最新のエビデンスを知っていても、それを患者にどう使うべきか、という実力がなければ、情報を知らないのと変わらないということです。
無論、常に学術情報に触れて、最新のエビデンスを入手している、知っているというのは当然のことですよ。
その上で、その情報の使い方を知らなければ、使う技術がなければ、治療者は結果は出せない、ということです。

でも『エビデンスを患者さんに上手く使う』って具体的にはどうすることなんでしょうか?
我々は何から手を付ければいいのでしょうか?
私はまず、みなさんに、診療ガイドラインに目を通していただきたいと思います。
なぜか。

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ここで改めて、診療ガイドラインの定義を確認しましょう。
診療ガイドラインとは、診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考慮し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書、と定義されています。
ちょっと聞きなれない言葉があるかもしれませんが、今日は細かいところは飛ばしてかまいません。
覚えていただきたいのは、診療ガイドラインとは、最善のアウトカムを目指す上での推奨の度合いを提示して、医療者の意思決定を支援するツールである、ということです。
つまりガイドラインとは、我々の意思決定を支援してくれる道具だ、ということなんですね。

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最新の情報を入手する方法はいろいろあります。
身近なところでは文献検索をする、学術誌を読む、学会に参加する、セミナーや講習会に参加する、などです。
でも、さっきのRCT論文にもあったように、ただただ新しい情報を入手しても、使いこなせるかどうかわかりませんよね。
また世の中には怪しげな論文、怪しげな学会、怪しげなセミナーが山盛り存在します。
たくさんの情報があふれるなかで、どれが本当に信頼できる情報なのか。
みなさんがEBMを推進するうえで、最も簡単で、最も確実に、根拠のある情報を入手して、我々の臨床判断を支援してくれる一つの道具として、診療ガイドラインがあるわけです。
診療ガイドラインって、ただ読むだけじゃないんですね。
診療をする上で活用する、ということが大切なんです。
その具体的な活用方法については、後半でお話ししたいと思います。

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次に、少し視点を変えて、医療情報というものが何の役に立つのか、ということを考えてみます。
そこから、患者にとっての診療ガイドラインの価値がより理解しやすくなると思います。

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いきなり私的な写真を出して申し訳ないのですが、2014年に私、ちょっとややこしい病気になりました。
胸骨の裏に胸腺という臓器があるのですが、そこに悪性腫瘍ができたんですね。
院内の健康診断で発覚しました。
で、阪大病院に入院して胸骨を開いて全摘したんですけどね。

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5月に胸腺腫という診断が下って、だいたい1か月後くらいに手術を受けたんですが、悪性腫瘍摘出術という治療を受けるまでの1か月間という期間で私は、医療従事者がぶれのない医療情報を発信することがいかに患者を救うものであるか、ということを痛感しました。
程度の差こそあれ、皆さんも体調を崩すことがありますよね?
自分が患者という立場になったときに、その疾患について調べると思います。
私も当然、診断が下ってから、胸腺腫、治療、で調べまくりました。

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グーグルで検索すると、最初にヒットするのが国立がん研究センターのホームページなんですね。
そこには胸腺腫と診断されたらどんな治療が行われるか、が詳細に記されています。
腫瘍のサイズがどれくらいならどんな処置をするのか、手術をしたあとどんな後遺症が残りやすいのか、生命予後はどうか…などなどです。
私が手術を受ける前に一番欲しかった情報は、開胸術をしなければならないのか、ってことだったんですね。
胸腺腫のオペは、腫瘍のサイズが小さければ内視鏡で済むんです。
でもサイズがでかいと、開胸術になります。
開胸術と内視鏡では身体への負担が全然違いますよね?
私は以前、急性期の外科病棟で術前術後のリハをしていたことがあるので、開胸開腹術後の患者さんが術後どれだけ痛がるかたくさん見てきたので、余計に怖いわけです。
で、自分の腫瘍のサイズと照らし合わせて、いろんな大学病院のホームページを調べてみたんですけど、

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だいたいどこの大学病院のホームページにも、同じことが書いてあるんですよ。
胸骨正中切開を避けたいと思って情報を調べまくっていくなかで、あ、これはもう腹を決めて開胸術を受けるしかない、と、自分の覚悟が決まっていくんですね。
私はこのときに、標準的な治療法が確立してる、ってすごいことやな、と思いました。

あ、あとで紹介しますが、これは胸腺腫の治療法がたまたま標準化されてたのであって、疾患によってはこれは無論違ってきます。

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じゃあ我々の仕事。
例えば脳卒中 リハビリテーション、で検索します。
そしたらどんな情報が出てくるか、みなさんご存じですか?

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ググったら、国立循環器病センターのホームページが最初に出てきます。
そのページの、麻痺が出た場合の歩行トレーニングのところにはこんなイラストと、解説が書いてあります。
杖を使って3動作揃え型、ですね。
『半身がまひしてできなくなった動作を、健康なときとは異なった方法で、不自由ながらもできるようにする』

…これ、現在の片麻痺患者の歩行トレーニング方法からいうと、けっこうズレてますよね?
無論こんな感じのトレーニングをしている病院もあると思いますが、新しいトレーニング理論を取り入れてる病院なら、この方法は選択しないと思います。

脳卒中を発症した患者さん、あるいはご家族さんが、脳卒中のリハビリテーションについていろいろ調べて、いろんな情報が出てきて、具体的な取り組み方は病院ごと、セラピストごとにバラバラである。
私はこの状況は、患者さんを、あるいはご家族さんを、確実に混乱させると思います。
そうならないように、治療を受ける側がどのような情報に触れるべきか。
もうお分かりだと思いますが、診療ガイドラインを読むといいんですね。

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もう一度診療ガイドラインの定義を復習しておきます。
最善のアウトカムを提示することで、患者の意思決定を支援する、と書いてあります。
診療ガイドラインを使用する対象は患者さんも含まれるんですね。
そのため、診療ガイドライン作成のルールでは、できれば患者さんにもわかるような容易な言葉で記載されることが望ましい、とされています。

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現状では、すべての疾患において診療ガイドラインが存在するわけではありません。
むしろ診療ガイドラインが存在する疾患のほうが少ない状況です。
しかし今後、治療を受ける側が、治療を受ける前に、根拠のある情報を入手したい、という流れが加速してくると思います。
そして、治療を受ける側が、容易に、混乱せず、正確な情報を入手するために、様々な疾患に対して、患者さん、その家族も利用できるような診療ガイドラインが存在することが望ましいと思われます。

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ここまで、治療する側である医療従事者にとっての診療ガイドラインの意義、そして治療を受ける側である患者およびその家族にとっての診療ガイドラインの意義についてお話ししてきました。
最後に、診療ガイドラインを通して、医療従事者と患者との関係がどのように良くなるか、ということをお話しします。

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ここからのお話は、2017年5月に発刊されたばかりの、『PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法』という書籍をベースにしています。
PT・OT・STは、おそらく医師や看護師に比べるとまだまだ診療ガイドラインを普段の業務に活用する、という意識が相対的に低いように思いますが、この書籍は我々セラピストが、普段の診療にどのようにガイドラインを活用するか、という点について非常に詳しく解説しています。
本日は具体的なところまではご紹介できませんが、また皆さんの興味があれば、別の機会にご紹介したいと思います。
この書籍を監修しているのが、

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京都大学大学院医学研究科の中山健夫教授です。
この方は健康・医療に関する問題解決を支援する情報のあり方、について研究しておられる方で、EBMとか、診療ガイドラインとか、あるいは医療におけるコミュニケーションのあり方などについて多くの論文や書籍を執筆されています。
中山教授が一番こだわっているのが、『情報』とは何ぞや、ってところなんですね。
情報、って何か?
って、改めて聞かれると、意外と説明するのが難しいですよね?

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「情報」は、「(意思決定において)不確実性を減ずるもの」であると、クロード・シャノンという人物によって定義されています。
これが情報の定義です。
「情報=不確実性を減ずるもの」とは何か、例を挙げてご説明します。

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これは『メディカルノート』という医療情報サイトの中山教授の記事から抜粋してきました。

例えば、休日にナビが付いていない車で京都からUSJに遊びに行くことになったとしましょう。USJに向かう途中、道が二つに分かれている場合、どちらの道を選択するでしょうか。何も情報がないので、「選択できない、分からない」と思われる方が多いのではないでしょうか。
このように、「分からない=情報がない」時は、どちらがUSJに行ける可能性(確率)が高いか分からないので、不確実性が最も高いということになります。
分かれ道のところに「右の道は大阪方面、左の道は奈良方面」という道しるべがあれば、奈良よりは大阪に向かったほうがUSJに近づけそう、言い方を変えれば、近づく確率が高まりそうだと分かります。
次の分かれ道では「山方面、海方面」という道しるべがあれば、海方面に向かった方がUSJにたどり着ける確率がさらに上がりそうだと思えます。
このような形で、私たちは枝分かれのあるところで常に道標を探して、自分の目指すゴールにたどり着く確率を高めようとしているのです。
この道しるべが「情報」なのです。
つまり情報というのは、意思決定をするときにゴールにたどり着く確率を高めてくれる手がかりなのです。

…と書いてあります。
この文章では、ユニバまでドライブする、というたとえになっていますが、ではこれを、我々が携わっているリハビリテーション医療で考えてみるとどうでしょうか?

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医療、特にリハビリテーションにおける意思決定は、非常に高い不確実性を含んでいますよね。
例えば料理のレシピを考えてみましょう。
半熟ゆで玉子を作りたい。
そのためには、レシピを検索して、熱湯で何分ゆでればよい、って情報は簡単に入手できますし、レシピ通りにすればまぁ間違いなく半熟ゆで玉子をつくることができるわけです。
でも我々の仕事はそんなに簡単じゃないですよね?

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先日お亡くなりになった日野原重明先生が影響を受けたウィリアム・オスラーという医学者は、「医学は不確実性の科学であり、確率のアート(技術)である」という言葉を残しています。
医学とは、ある治療がその患者さんに「必ずよい」効果が示すかどうか100%とは言えない中で、最大限に自身の知識を用いて、患者さんに最良のことを行おうとる行為であると言う意味です。
そこが医学のむずかしさであり、逆にいうとやりがいのあるところなわけです。
そしてその不確実さを少しでも減らして、患者さんをよくする確率を高めるための意思決定の道しるべになるのが情報であり、医学の場合の情報はエビデンスやセラピストの経験ということになります。
そして、少しでも良い結果を得られるようにするには、治療する側も、治療される側も、より質の高い情報を入手しなければなりません。

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たとえば初期乳がんの治療としては、手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法など様々な治療法があって、どの方法が患者さんの長期生存を良くするかについて様々な議論があります。
どの方法にも、メリットとデメリットがあります。
最近でいうと、小林麻央さんが乳がん発見後に民間療法中心の治療を行って、気が付いたら全身に転移していた、という事例もありましたよね。
医療情報をうのみにせず、落とし穴に注意してしっかり見ることは非常に重要です。
こういった場合に、どの方法を選択するかを考える上で、Shared decision making という意思決定の方法が重視されてきています。

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Shared decision makingというのは、どの治療が最良なのかが分かっていないなかで、治療者と患者が、今利用できる最善のエビデンスを共有して一緒に治療方針を決定していくという方法です。

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一般的に、医療において意思決定を考える場合、大きく3つのタイプに分けられるとされています。
パターナリズムモデル、シェアードディシジョンモデル、インフォームドディシジョンモデルの3つです。
パターナリズムモデルは、治療者が提供する情報は少なく、治療者が意思決定の中心となります。
例え複数の選択肢が想定されても、患者には選択肢を選ぶ能力がないという想定のもと、治療者が意思決定を行います。
これに対して、シェアードディシジョンモデルでは、治療者は提供する情報を制限することはなく、患者の意思決定に必要な情報をできるだけ多く提供します。
そして、治療者と患者が話し合いを重ねて意思決定が行われます。
インフォームドディシジョンモデルでは、治療者から提供される情報量が多いのは同じですが、治療者と患者で一緒に決めるのではなく、患者自身で意思決定を行うというものです。
今後医療における多くの意志決定が、パターナリズムモデルからシェアードディシジョンモデルに変化していくと考えられています。
そして、Shared decision makingを推進するためには、医療従事者は、これまで以上に患者さんに合わせた高いコミュニケーションスキルを獲得して、常に新しいエビデンスを勉強し続ける向上心が、今まで以上に強く求められていくことになります。
当然この流れはリハビリテーションの治療法選択においても例外ではありません。

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セラピストが治療において目標や治療における意思決定方法を調査した先行研究では、
・療法士は患者の自主的な選択を促すより、最も効果的と思われる方法を暗黙的に決めることが多く、療法士中心で決定を下す傾向がある、
また、
・意思決定への患者の関与を調査した研究では、療法士の多くは患者を関与させたと報告している一方で、患者は療法士からの相談や同意確認がなく、決定するための十分な支援もなかったとしていた、という報告があります。
こうしたことを背景に、近年、リハビリテーション分野においても、SDMを実践することでよりよい治療ができるようになるのではないか、という研究が始まっています。
そういわれてみると、確かに我々が治療内容やゴールを考えるときに、どれくらい患者さんとしっかりディスカッションをしているか、というと、しっかりした同意を取らない傾向があると思われます。

でも、ここでみなさん、「そんなこと言ったって、実際に担当患者さんの圧倒的多数はなかなか情報共有することが難しいよ」と思われるかもしれません。

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Shared decision makingでは、患者さんは自分で意思決定する必要性が高まります。
でも自分で意思決定できない患者さんもたくさんいますよね?
そういった場合に、患者さんに強制的に意思決定させる必要はありません。
そこで関心が持たれているのがデレゲーション(委任)という考え方です。
これは、患者さんが医療従事者から様々な情報を提供された結果、患者さんが「先生が私にとって最良と思うことをしてください」というように、医療従事者に任せるという方法です。
これは、コミュニケーションの過程で患者さんが主体的に「この医療従事者に意思決定を委ねる」と決めた、ということになります。
医療従事者の立場からすると、患者さんに意思決定を委ねられた、という状態です。
これがデレゲーションです。

ただし、この場合でも、前提として、医療従事者と患者さんとの間で、最新のエビデンスに基づいた治療方針に関するコミュニケーションが成立している、ということが重要であり、我々医療従事者と患者さんの双方が、これまで以上に医療情報、最新のエビデンスについての知識を得ることが大事なことに変わりはありません。

…ということで、ここまで、我々医療従事者にとって、また患者さんにとって、最新のエビデンスを入手するということの大切さについて説明してきました。
ではまず最新のエビデンスをどこで入手したらよいのか。
現在、医療従事者および一般生活者へのエビデンスやガイドラインの普及に向けた取り組みが様々な形で始まっています。

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興味を持った方は、まずインターネットで「Minds(マインズ)」って検索してみてください。
公益財団法人日本医療機能評価機構の情報センターである「Minds(マインズ)」が各領域の診療ガイドラインを中心に、近年の重要論文などを無料で提供しています。
そこから皆さんのEBMへの取り組みが始まると思います。
以上が私の考えるガイドライン活用法です。

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また、講義の後半で解説した、シェアード・ディシジョンメイキングについて興味を持ったヒトは、9月15日に中山先生がこんな本を出版されます。
これ、つい先ほど、物品購入の願いを出しましたので、手元に届くと思います。
もうすぐですが、9月16・17日には京都大学で第9回日本ヘルスコミュニケーション学会というものが開催されますので、参加してきます。
私は、これからセラピストが職域を拡げて自分の食い扶持を稼いでゆくためにはこういった分野の知識が非常に重要となってくると思いますので、興味のあるヒトには追って最新の情報をお伝えしたいと思います。
 

プロフィール画像
ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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