11.T-Supportと他の歩行補助機器の効果比較に関する研究


T-Supportは、2016年2月に川村義肢さんが販売を始めてね。
2016年6月から、パシフィックサプライさんでの全国的な販売が開始されたのだ。
歩行補助具としての特徴は、装着した下肢の股関節屈曲モーメントを補助すること。

…ということは、結構コンセプトがかぶる歩行補助マシンが存在するのだ。

ボキ、どれが優秀でどれがポンコツなのか、なんて言うつもりはこれっぽっちも無いよ。
(いやそりゃまぁ、ね、これだけはどうしようもない…ってマシンも確かに存在するわけだけれども)
それぞれ、適材適所、患者さんの足りてない要素を補助できる道具をその時々で選択するのが理学療法士の腕の見せどころなわけでしょ?
まぁそういうわけで、どういう時期のどんな患者さんにどんなマシンを使えばどんな反応が得られるのか、を調べることって大事だよね。
うん。

11-1.大腿骨頸部骨折の患者さん、T-Supportとホンダ歩行アシストの比較。


歩行アシスト、当院でも使ってます。
なかなかええ機械やで。
T-Supportと比べると、股関節の伸展もコントロールするところが面白いよね。
これを頸部骨折の患者さんに使ってみるとどうなるか、ってお話。
2016年の第28回兵庫県理学療法学術大会で発表しました。

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近年、歩行トレーニングにおいて、下肢機能を補助することを目的としたマシンが増えてきました。
当院でも様々な機器を使用しています。
その中で、ホンダ製歩行アシストと川村義肢社製T-Supportを使用した大腿骨頸部骨折術後患者の足関節の運動に興味深い違いが見られたので報告します。

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対象は40歳代の女性で、左大腿骨頸部骨折に対し観血的整復術を行っていました。
術後80日が経過しており、他動的運動では著明な可動域制限は見られませんでした。
歩行能力も高く、30分以上の屋外歩行が可能でしたが、歩行時に左股関節の伸展動作が不十分でした。

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そこで、フリーハンド歩行、歩行アシスト装用、T-Support装用の3条件で、10m快適歩行時の所要時間、ステップ数、ターミナルスタンスでの足関節背屈角度、プレスイングの足関節底屈トルクを測定しました。
評価にはパシフィックサプライ社製ゲイトジャッジシステムを使用しました。

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こちらが何もつけずに歩いている様子です。
今回の検証では股関節角度を測定していないため、数値でお示しすることができませんが、目視でも股関節伸展は不足しているように見えます。

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歩行アシストを装用しました。
印象としては、そんなに大きく変わったという感じはありません。

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T-Supportを装用しています。
これもそれほど変わったという感じはありません。
これら3つの条件での歩行因子を比較します。

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10m歩行所要時間は、未装着8.5秒、歩行アシスト9.1秒、T-Support8.5秒。
ステップ数は3条件で変化がありませんでした。
足関節背屈角度は未装着10度、歩行アシスト12.1度、T-Support10度。
足関節底屈トルクは未装着3.3Nm、歩行アシスト2.9Nm、T-Support4.2Nmでした。
これらの変化の中で、私は特にこのプレスイングでの足関節底屈トルクに着目しました。
プレスイングの足関節底屈は、遊脚期の加速を得るために重要であるとされていますが、これが歩行アシスト装用時に減少しています。
その理由は何でしょうか?

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そもそも本症例で歩行アシストを使ったのは、モーターによる股関節伸展運動の補助によって、歩行時の股関節伸展角度が増大することを期待したからです。
しかし実際に歩行アシストを装用してみると、歩容は大きく変化せず、足関節の底屈トルクが減少しました。
T-Supportを装用した場合は、歩容に大きな変化は見られませんでしたが、底屈トルク値が増大しました。
どちらを使用した際にも、股関節への影響は大きいものではありませんでしたが、結果からは、歩行アシストを使用する際に我々が留意すべきことが見えてきます。
それは、モーターによる股関節の制御を行った際の運動様式をしっかりと確認すべきだということです。

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歩行アシストを開発した大畑らは、歩行アシストが発揮するトルクは、健常歩行における股関節の関節モーメントと類似した波形である、としています。
では、健常歩行における股関節はどのような力を発揮しているのでしょうか。
このグラフは1歩行周期における股関節のパワーのグラフです。
これを見ると、立脚初期の股関節は伸筋が求心性の収縮を、立脚後期にかけては屈筋が遠心性の収縮をして力を発揮します。
一方、歩行アシストを健常人に使用した研究では、立脚初期に股関節伸筋群の求心性パワーを増大させる効果が確認された一方で、立脚後期の屈筋の遠心性パワーについては装着者によりばらつきがあったとしており、立脚初期と後期で効果に違いがあることが示唆されています。
これは立脚後期の股関節の制御方法に起因するのではないかと考えられます。

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T-Supportは股関節前面に力源を配置しており、股関節伸展時に蓄積したエネルギーを開放して股関節屈曲モーメントを得るという形でアシストします。
これは股関節屈筋群の運動様式に相似しており、立脚後期にかけて屈曲方向の遠心性パワーを発揮します。
一方歩行アシストは、股関節の外側という、本来生体には存在しない位置で、モーターを使用して伸展モーメントを発揮させるため、装着者がどのような意識で運動をするかによって、立脚後期の遠心性パワーの発揮が不十分となり、モーターに依存した運動になる可能性があると思われます。
症例からは、歩行アシストの装着が最も楽に歩ける、という感想が聞かれましたが、今回の検証時には、股関節の屈伸動作をモーターに依存してしまい、足関節の底屈運動も抑制することになったのではないかと考えました。

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近年歩行トレーニングに使用される機会が増えてきた多くの機器は、生体とは異なった位置に力源を配置したものが多くみられます。
これらの機器を利用する際には、装着時の運動が、機械任せになっていないかをしっかりと評価する必要があるのではないかと思います。




…モーターで股関節の屈曲を補助するという技術の難点は、症例によってはひょっとしてこのあたりに出てくるんじゃないかと思うのだ。
股関節の機能が低下した症例の歩行トレーニングで、足関節をどう働かせるべきか、ってところは結構難しい問題なんだけどね。。。

11-2慢性期脳卒中片麻痺患者さん、めっちゃ代償動作が強い場合、例のあのロボットと比べてみて…って発表

これも2016年第28回兵庫県理学療法学術大会での発表。
うちのウエダくんが発表したのだ。
宝塚リハビリテーション病院にはロボットスーツHALが鎮座してるんだな。
使用頻度は…お察しください。

でも、入院患者さんも結構知ってるからね。
HAL。
使ってみるんだけど、無論、ばっちり適応の場合もあれが、適応じゃない場合もあるわけさ。
そんなお話。

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はじめに。
今回、発症から6年が経過した慢性期脳卒中片麻痺患者を担当する機会を得ました。
本症例の当院への入院目的はロボットスーツHALを使用したトレーニングでした。
入院当初はHALを用いたトレーニングを中心に実施しましたが歩容に変化が見られず、長下肢装具と川村義肢社製歩行補助具T-Supportを併用した歩行練習を中心に実施した時期に歩行能力の改善を認めたため報告します。

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症例は60歳代の男性で、平成21年9月に右中大脳動脈閉塞による左片麻痺を呈しました。
平成22年10月に自宅退院後、HALを使用したリハビリ目的で他院に計7回短期入院を繰り返していました。
当院へもHALを使用する目的で平成27年9月に入院となりました。

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Brunnstrom Recovery Stageは下肢Vであり、T字杖歩行は3動作揃え型でした。
体幹は常時前傾位であり、ふらつき・麻痺側下肢の引っ掛かりを認め、中等度の介助を要しました。

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麻痺側下肢の振り出しは遊脚初期から中期で体幹を伸展する反動で行い、努力的でした。
そのため、歩行効率が低下していると考えました。

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当院入院後はご本人様のご希望でHALを用いた歩行練習を中心に実施しました。
写真のように転倒リスクに配慮して前方・後方2人介助で歩行練習を行いました。
HAL使用中は患者様から「重たい」、「足を出すのに力がいる」などの感想が聞かれました。
実際にHALを使用した歩行では姿勢の修正は困難であり、努力的な歩容に変化は見られませんでした。

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そこで歩行中の体幹の伸展位保持と麻痺側下肢の安楽な振り出しを促す目的で長下肢装具とT-Supportを併用したフリーハンド後方介助歩行練習を実施しました。
画像の波形は上の緑色の線が歩行中に発生する麻痺側足関節の底屈制動トルク値を示しており、下の白色の線が足関節角度を示しています。
右の画像の長下肢装具とT-Supportを装用し、フリーハンド後方介助を行った時のほうが底屈制動モーメントの値は一定しており、歩行中の足関節角度も底背屈にきれいな山を形成していることが分かります。
この波形からHALを使用した歩行練習よりも体幹のアライメント修正、麻痺側下肢の努力的な運動を改善できるのではないかと考え、ご本人様に説明、同意を得たうえで長下肢装具とT-Supportを装着した歩行練習を開始しました。
その効果を検証するため1週間ごとに3回Gait Solution足継手付き短下肢装具装着下でのT字杖歩行における歩行因子の変化を記録しました。
評価する歩行因子は10m歩行における麻痺側初期接地時の底屈制動トルクの平均値、10m歩行所要時間とその歩数としました。
測定にはパシフィックサプライ社製Gait Judge Systemを使用しました。

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結果です。麻痺側初期接地時の底屈制動モーメントは初期評価時に比べて減少し、10m歩行所要時間と歩数は週を追うごとに減少しました。

麻痺側初期接地時の底屈制動モーメント(9.01Nm、7.57Nm、7.48Nm)
10m歩行所要時間(52.6秒、44.7秒、33.7秒)
歩数(49歩、38歩、32歩)

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歩容としては体幹前傾位での歩容に若干の改善が見られ、評価2週目より徐々に前型歩行へと変化していきました。
麻痺側下肢の努力的な振り出しにも改善が見られました。

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考察です。本症例においてHALを用いた歩行練習では努力的な歩容に変化は見られませんでした。
その要因として、HALを使用した歩行では腰背部のHAL本体の影響でセラピストが密着した後方介助を実施できず、体幹伸展位への矯正が困難であったことが挙げられます。
そのため、安楽な麻痺側下肢の振り出しに必要な立脚後期での股関節伸展運動が得られず、遊脚期での努力的な振り出しは改善しなかったと考えます。

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長下肢装具とT-Supportを併用した歩行練習では、体幹のアライメントの修正が容易となり、立脚後期での股関節の伸展運動を得られやすいため、結果として努力的な麻痺側下肢の振り出しが修正されたと考えます。
上の初期評価時の画像の緑色の波形よりも2週間後の波形の方が全体的に一定しており、波形が小さくなっていることが分かります。
そこから麻痺側下肢の努力的な運動は軽減したと考えられます。
また後方介助フリーハンド歩行により2動作前型歩行を促したことで杖歩行においても前型歩行が汎化され、ストライドが伸びた結果、歩行速度は向上したと考えます。

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以下まとめです。
ご清聴ありがとうございました。




…って内容なわけ。
これはホンダの歩行アシストにも共通して言えることなんだけど、ロボットを装着してる場合、理学療法士の後方介助による体幹のアライメントの修正とかって、難しくなるんだよね。
多くのリハビリテーション用のロボットは、基本的に股関節や膝関節の動きをモーターでコントロールするって形が多いので、体幹の崩れが強いケースでは不向きなんでしょうね。

ちなみにこの患者さん、T-Supportを個人で購入されてご退院されました。
おそらく個人購入の第1号でした。

プロフィール画像
ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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