6.T-Supportによる長下肢装具の膝の固定解除に関する研究

 


長下肢装具って、便利やん?
けど、膝固定するやん?
スイングのときに、不便やん?

そう、だから、T-Supportを使ってみたら、面白いんじゃないですか?
T-Supportの弾性バンドの張力を使ったら、長下肢装具の膝関節の固定を比較的早めに解除できるんじゃないかと思うのです。
そういうお話。

6-1.徒手的に介助するのと、T-Supportで介助するのと、こんなに違う感じなんですよ、って研究

これは2015年の第4回脳血管障害への下肢装具カンファレンス2015でボキが発表した内容です。

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この会場におられる多くの皆さんが、脳卒中片麻痺患者の治療場面に長下肢装具を使用されることと思います。
私の所属する宝塚リハビリテーション病院でも、積極的に長下肢装具を使用しています。
長下肢装具は麻痺側立脚期に重心を持ち上げる上で非常に有用な道具であると実感しています。
しかし、長下肢装具を使用する上で最も難しいことの一つとして、どの段階でカットダウンするべきか、という議論があると思います。
これは私の個人的な意見ですが、適切なカットダウンの時期とは、長下肢装具を用いて行っていた歩行動作を、そのまま短下肢装具でも行えるようになった時期こそが、適切な時期ではないかと考えています。

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しかし現実には、長下肢装具を用いてセラピストの後方介助による前型歩行を繰り返し練習してきたのに、カットダウンした途端に患者さんは3動作揃え型歩行を始める、というようなことがよくあります。
なぜ長下肢装具で獲得した歩容がそのまま短下肢装具で実現できないのか?
この原因の一つとして、長下肢装具から短下肢装具へのカットダウンの過程において、一気に運動の難易度が上がってしまうことが挙げられるのではないかと考えています。
膝関節を固定した状態から、もうワンクッション難易度を下げた運動を経由してカットダウンへと持っていくことで、長下肢装具で行ってきた歩行動作を短下肢装具でも行えるようになるんではないだろうか。
今日はそういう取り組みをご紹介したいと思います。

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そのためには、T-Supportという歩行補助具を使う必要があります。
これは、私が川村義肢さんの協力を得て3年ほど前から開発してきたもので、基本的にはゴムバンドで下肢装具を引っ張ると治療効果が高まるんじゃないか、というコンセプトで開発された歩行補助具です。
これまで様々な種類のT-Supportを作成して参りまして、おそらく、来年度には商品化して皆さんにお使いいただけると考えています。

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今回お話しますのは、その開発過程の一品で、体幹コルセットを使用していますので、我々は『コルセットタイプ』と呼んでいます。
これは体幹コルセットにハンドルが付いておりまして、セラピストが後方から患者の体幹を操作できるようになっています。
コルセット前面からはゴムバンドが伸びておりまして、下腿カフに巻きつける構造になっています。
これは当初、カットダウンの難易度の調節を目的として作成したわけではありません。
あくまでも長下肢装具の膝関節はロックした状態で、上手くスイングできるようなサポートするにはどのような構造がよいのかを模索していました。
しかし、ある日気づいたのです。
この歩行補助具とセラピストの重心移動により、長下肢装具が適応であると思われる段階の患者さんにおいても、膝関節の運動自由度を上げた状態での歩行動作が行いやすくなるのではないか、と。

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そこで今回は、当院に入院中で長下肢装具を使用した歩行練習を行っている患者様にご協力をいただきまして、T-Supportを使用することでどのような歩行動作が可能であるか、データを取らせていただきました。
ご協力頂いた患者様は発症から約4カ月が経過しており、下肢Brunnstrom Recovery StageはVでした。
比較したのは、長下肢装具の膝継手をロックした状態での歩行と、膝継手を解除した状態でセラピストが長下肢装具を徒手的にコントロールした歩行と、長下肢装具の膝継手を解除しコルセット型T-Supportを装着した歩行で、川村義肢社製Gait Judge Systemを用いてどのような違いがあるのかを検証しました。

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これは長下肢装具の膝継手をロックした状態の歩行動作です。
膝関節が固定されていることで麻痺側立脚期の足関節はしっかりと底屈位へと踏み込み、その後下腿の前傾に伴い背屈位へと変化しています。
足関節の角度変化はこちらのグラフ、これは正が背屈・負が底屈ですが、きれいに踏み込んだ後に背屈位へと切り替わっていることがわかります。
この歩行動作自体はとてもきれいに行えていると思います。
ただし、スムーズに短下肢装具を用いた歩行動作につなげるという観点からは、問題点が2.つあると私は考えています。
一つは、立脚期に重心を持ち上げるという動作が、長下肢装具のおかげであまりにも簡単に行えているといこと。
そしてもう一つは、膝関節が伸展位で固定されているために、立脚後期から遊脚初期にかけての膝関節の屈曲動作を伴ったスイングが学習できないということです。
この症例で、膝関節のロックを解除するとどうなるでしょうか?

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この時期、本症例は自己でのスイングが十分には実施できないため、セラピストは遊脚期に徒手的に長下肢装具をひっぱります。
その後、立脚初期からは膝折れを防ぐために股関節・膝関節が伸展する方向に支持しようとします。
しかし支持しきれずに膝折れが起きます。
足関節の角度を見ても、立脚初期からの踏みこみが乏しく、また膝伸展位での下腿前傾が起こらないためにえ背屈位への切り替えもほとんど見られません。
患者さんにとっても、セラピストにとっても、この環境で膝を自由に動かして歩行するということがまだ難しすぎるんだと思います。

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そこで、T-Supportを使用します。
T-Supportを使用する最大のメリットは、ゴムバンドによるスイングのサポートがあるために、セラピストが下肢を引っ張る必要がなくなるということです。
そして、空いたセラピストの手はコルセットのハンドル操作に用いることができるため、立脚期の身体重心のコントロールに集中することがます。
これにより、膝の自由度を制限しない状態であっても膝折れを起こさずに立脚期を創ることが可能になります。
足関節の動きをみても、初期接地から足関節が底屈位へと踏み込み、その後膝関節伸展位のまま背屈位へと変化していることがわかります。
また立脚後期から遊脚期にかけて、膝関節を固定した場合には決して行えない、膝関節屈曲位からの慣性力を用いた伸展運動が可能となっています。
このように、T-Supportを使用することで、随意性や支持製の乏しい症例においても、より正常歩行に近づけた歩行トレーニングが可能となるのです。

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なぜT-Supportの使用が難易度の調整に有効なのでしょうか?
立脚期の膝関節の支持性は筋力よりも股関節と足関節の相対的な位置関係関によって規定される、とされています。
臀部・体幹をしっかりと持ち上げることで、床反力を膝関節の中心部に近づけ、支持性の乏しい状態であっても伸展位で保持することが可能となるからです。
長下肢装具で膝関節を固定している場合には、このアライメントはなかば強制的に誘導されます。
カットダウンにより歩容が変化してしまうのは、膝関節の自由が許された状態で、セラピストにより重心を持ち上げるという動作の学習の機会が提供されていなかったことが要因ではないかと考えています。

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T-Supportを使用することにより、麻痺側下肢の動きはゴムバンドでコントロールしつつ、セラピストは体幹・骨盤の操作を行うことが可能となります。
これにより、膝関節の運動自由度を確保した状態で、安定した立脚期をつくる事が可能となったのです。
本日ご紹介した症例だけではなく、当院では、このようにセラピストの徒手的な介助ではまだまだきれいな立脚期をつくることが難しい症例において、膝の固定と遊動を組み合わせた歩行動作が可能となり、より早い段階でのカットダウンが可能となってきています。
今後は、このT-Supportを用いたロック解除歩行が治療的にどのような意味があるのか、を検証していこうと考えています。




…うん、なかなかよい内容なのです。
この症例を担当してたのはモリイちゃんなのですが、彼女も2015年の第27回兵庫県理学療法学術大会で発表しています。
それがこちら。

6-2.早期のロック解除トライアル、モリイちゃんがまとめたよ

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はじめに
麻痺側下肢の支持性低下により、長下肢装具膝継手固定解除下では膝折れが著明にみられ、歩行が困難であった症例に対し、歩行補助具T-Supportを使用することで、膝継手固定解除下での歩行動作が可能となりました。
これにより、膝関節の運動自由度を制限せず、正常歩行に近い関節運動を繰り返し学習することが可能となった結果、歩行能力が向上したため報告させて頂きます。

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対象は、70歳代の男性で脳梗塞右片麻痺を呈し、下肢Brunnstrom Recovery StageはUと重度の運動麻痺を認め、さらに感覚障害や高次脳機能障害がみられていました。
当院入院後、長下肢装具を作製し、フリーハンド介助歩行練習を中心に実施しました。
当院入院から約2ヶ月半後の第131病日、膝固定解除下では立脚期に膝折れが著明で歩行困難でしたが、T-Supportを装着することで膝固定解除下での歩行が可能でした。

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そのため、T-Supportを装着した歩行練習の効果検証を目的に装具装着下での杖歩行をT-Support有り、無しの2条件において、10m歩行速度と歩数の変化を計測しました。
T-Supportとは、下肢装具を用いた歩行練習において、体幹前面から装具の下腿カフをゴムバンドでつなぎ、立脚後期の股関節伸展に伴ってゴムバンドが伸張され、遊脚期で股関節屈曲を補助することを目的としています。

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結果です。
第131病日、T-Supportなしでは歩行動作が困難でしたが、T-Supportを使用することで歩行可能でした。
そのため、膝継手固定解除しT-Support装着下でのフリーハンド歩行練習を中心に実施しました。
第167病日よりT-Supportなしの歩行が可能となり、第212病日ではT-Supportの有無にかかわらずほぼ同等の速度・歩数で歩行が可能となりました。
また、測定開始から5回目の測定まで、歩行速度の向上・歩数減少を認め、より前型の歩行が可能となりました。

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考察です。
まず、こちらの動画をご覧ください。131病日の歩行場面です。
左側がT-Supportなし、右側がT-Supportありです。
T-Support無しでは、麻痺側立脚期に膝折れが著明にみられており、麻痺側遊脚期の振り出しも介助が必要な状態です。
そのため麻痺側の機能回復を促すようなアライメントでの歩行練習が困難な状態でした。
しかし、T-Supportを装着することで麻痺側でも踵接地から、膝折れなく立脚中期にかけて身体重心を上方へ持ち上げ、立脚後期で股関節を伸展することが可能となっています。
また、立脚期に伸張されたゴムバンドの張力により前遊脚期から遊脚初期にかけて素早い股関節屈曲とそれに伴う膝関節屈曲が得られクリアランスが確保されています。

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先ほどの動画のように、本症例は麻痺側立脚期の支持性が低く、膝折れが強いため、立脚中期の身体重心持ち上げが困難、立脚後期の股関節伸展も難しい状態でした。
T-Supportを装着することで、膝関節の前方を通るゴムバンドが膝関節伸展を補助し、立脚中期に膝折れなく、立脚後期で股関節膝関節を伸展位で保持することが可能となりました。
また、セラピストは体幹操作に集中することができ、より良いアライメントで歩行練習を行うことが可能となりました。

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さらに、遊脚期では常時屈曲位であった膝関節が、T-Supportを装着することで、慣性力を用いた屈伸動作が可能となりました。
その結果、正常歩行に近い膝関節の動きを繰り返し学習することが可能となりました。

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これは退院時の動画です。
長下肢装具から短下肢装具へ移行する時期については様々な報告がありますが、膝関節の支持性が得られた時点でカットダウンするというというものが多いように感じます。
しかし、本症例のように、膝関節の支持性が不十分な段階でもT-Supportを使用することで、立脚期の支持性・遊脚期の膝関節屈伸動作を確保した歩行練習が早期に可能となると考えます。
以上で発表を終わります。
ご清聴ありがとうございました。



…これね、動画をいっぱい使った発表だったから。
本当にね、徒手的な牽引では、膝屈曲位になっちゃってたの。
それがT-Supportを使うことで、膝伸展位での保持が可能になったんだよ。
動画…見てほしいわ。
MAJIDE。
この症例の変化で、ボキ、T-Supportはこれまでの装具療法に革命を起こせるって自信を持ったんだ。
ただし、気をつけなきゃならないことがあります。
T-Supportを使った早期のロック解除は、少々技術的な難易度が高い、ということなのです。
ただT-Supportをつけたらそれだけでできるものではありません。
装着したうえで、理学療法士がしっかりと目的を持った介助をしないと、早期のロック解除はできません。
そんなお話をきいてもらいましょうか。

6-3.なつみとトモッキーのハーモニー 第一章


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2つ前に竹田総合病院の丹保氏が発表されましたが、オランダには麻痺側下肢に弾性バンドを装用し牽引するCVAidという歩行補助具があります。
私は、これに興味を持ち、昨年、丹保氏と2人でオランダに見に行ってきました。
そしてCVAidを職場に持ち帰り、患者さんに装着してみたり、勝手に改造してみたり、実習生に装着させたりと、いろいろ試してきました。

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このCVAidのほかにも、近年、脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングにおいて、ロボットスーツHAL、リズム歩行アシスト、アクシブなど、麻痺側下肢に外力を加えるという機器が普及しつつあります。

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そうした流れの中で、2011年より、宝塚リハビリテーション病院と川村義肢は、下肢装具と体幹を弾性バンドで連結する歩行補助具、T-Supportの開発を進めてまいりました。
さまざまな階良を加えてまいりまして、このような形で近日中に皆さまにお使いいただけることになりそうです。

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T-Supportを装用することが歩行時の身体にどのような力学的影響を与えるのか、これまで様々な検証を行ってきました。
これまでに明らかになっていることは、遊脚期に股関節屈曲モーメントを増大させることで、麻痺側下肢のスイングを補助すること。
また、立脚期には膝関節伸展モーメント、および足関節底屈モーメントを増大させ、立脚期の支持性を向上させることです。

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この数年間、私ほど、片麻痺患者さんの麻痺側下肢にゴムバンドを巻いた歩行練習をしてきた理学療法士は居ない、と自負しています。
そしてその経験から、ゴムバンドを利用することは、徒手的な介助に比べ、優れた部分が多々あると考えています。
この写真は、今年度の兵庫県理学療法学術大会で発表した内容ですが、このように、徒手的な介助ではまだしっかりと下肢の伸展位保持が難しい症例においても、T-Supportを使用することで、良いアライメントを保持することが可能となる場合があります。
しかし、ここで留意すべきことがあります。

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それは、T-Supportの最大の特徴は、理学療法士による介助歩行時の使用を前提に開発されたものであるため、使用する理学療法士の介助技術により、その効果にも差が出る、ということです。

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本日お話しする内容は、当院に入院する回復期脳卒中片麻痺患者において、臨床経験13年目と、臨床経験1年目の理学療法士が、同じようにT-Supportを用いた介助歩行を行った際に、どのような違いが生じるのか。
そこから、どうすれば上手く歩行介助ができるようになるのか、ということを考えてみたいと思います。

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今回の評価にご協力いただいた患者さんは、70歳代の女性で、左視床出血による右片麻痺、ブルンストロームリカバリーステージは3でした。
担当理学療法士は先ほどのスライドに出てきた、新人のなつみでした。

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これは、第70病日の、長下肢装具で膝関節を固定した状態での新人による後方介助歩行の様子です。
ゲイトジャッジシステムの画面で確認すると、ローディングレスポンスからターミナルスタンスにかけて、足関節が底屈位から背屈位へと、非常にスムーズに変化していることがわかります。
このことは、麻痺側立脚期に下腿がスムーズに前傾していっていることを表しています。
発症から約2か月半が経過して、ぼちぼち膝関節の固定を介助した歩行トレーニングも始める必要があるのではないかと考え、立脚期の下肢の支持性を保障するために、T-Supportを装用し、膝関節の固定を介助したフリーハンド歩行練習を行うこととしました。
まず、新人による、膝固定解除下での歩行の様子をご覧いただきます。

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ターミナルスイング。

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ローディングレスポンス。

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ミッドスタンス。

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ターミナルスタンス。
立脚期全般を通して、膝伸展位の保持が困難であり、まだまだ膝関節の固定を解除するのは難しそうな印象を受けます。
ここで、足関節のグラフを、膝関節固定時の波形と見比べてみると、波形の違いが明らかです。
では次に、熟達者が同じ条件で歩行をしてみます。

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ターミナルスイング。

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ローディングレスポンス。

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ミッドスタンス。

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ターミナルスタンス。
まずまず良いアライメントです。
これならばぼちぼち、膝関節の固定を解除した歩行トレーニングを行ってもよさそうです。
足関節の波形も、少々がたつきがありますが、比較的似た形であり、麻痺側立脚期が安定していたことを反映しています。
でこの違いを数値でどのように表すことができるでしょうか?
やはり、一番の違いは膝関節のアライメントであると思われますので、ターミナルスタンスの膝関節の角度を、ビデオ画像をキャプチャして計測しました。

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青のグラフが熟達者、赤のグラフが新人です。
膝関節の固定を介助した第70病日では、新人は、熟達者に比べ、膝関節が14.2°屈曲位となっていました。
臨床では、熟達者が、歩行介助の方法を指導し、介助技術の向上を試みました。
第85病日では、膝関節の角度差は8.8°へと縮まり、第101病日では、その差は3.8°となりました。
このことは、徐々に新人が上手くT-Supportを使いこなすようになり、比較的膝が伸びた状態でのターミナルスタンスを創ることができるようになったことを表しています。

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では考察に移ります。
今回の検証を通して、まず、長下肢装具による膝関節の固定を早期に解除する上での技術的な課題とは何か?
次に、今回の症例においてT-Supportが果たした役割とは何か?
最後に、なぜ新人なつみは歩行介助が上手くなったのか?
の3つのことを考えました。

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長下肢装具を用いた歩行練習は、膝関節の固定により、麻痺側立脚期の重心のコントロールを容易なものとしてくれます。
その一方で、麻痺側下肢のクリアランスを確保するために、膝関節を自由に動かした状態でのスイングの練習もまた重要です。
しかし、多くの臨床家にとって、どの段階で膝関節の固定を解除するかということは非常に悩ましい問題ではないでしょうか?
膝関節の固定を解除することは、特にターミナルスタンスにおいて、股関節・膝関節伸展位を上手く保持させられるかどうか、が重要だと感じています。

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しかし、おそらく多くのみなさんが経験しておられることと思いますが、長下肢装具を使用した介助歩行練習時にはしっかりと股関節を伸展していた症例が、膝関節の固定を外したとたんに非麻痺側のストライドが短縮し、揃え型に近い歩容を呈する。
これは膝関節の運動自由度が向上したことで、課題の難易度が一気に向上したためであると思われます。
T-Supportは装着下肢の股関節を伸展した際に、下肢前面のゴムバンドが伸長され、膝関節伸展を補助するため、難易度の調整が可能となる。
これが、膝関節の固定の解除を行う際の、T-Supportの役割であると考えます。

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しかし、新人なつみは当初、ターミナルスタンスでの膝折れに対する恐怖心が強く、歩行周期全般を通し患者の体幹部を強固に自身に引き付ける介助となったため、特にミッドスタンス以降に重心が後方に残ってしまい、その結果、膝関節に強い屈曲モーメントが発生していました。
そこで熟達者の指導のもと、膝関節のロック解除下での適切な重心移動の方法を繰り返し練習しました。
その結果、最終的に膝関節の屈曲角度の差が縮まり、膝関節ロック解除下での安定した歩行トレーニングが可能となったものと考えます。

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まとめです。
回復期脳卒中片麻痺患者において、歩行補助具T-Supportを使用した熟達者と新人の介助歩行動作を経時的に比較しました。
介助方法の違いにより、立脚期の安定性に大きな違いが認められました。
T-Supportが介助歩行時に効果を発揮するには理学療法士の適切な介助が必要であることがわかりました。
 

6-4.これはちょっと訳ありで、本当はこのテーマじゃなかったんだけどね…

じゃぁ次。
第5回脳血管障害への下肢装具カンファレンスでのザイゼンくんの発表。
ちなみにこの第5回脳血管障害への下肢装具カンファレンス、宝塚リハビリテーション病院から、大阪会場で2本、東京会場で3本発表しましてん。
本当は大阪で発表しようとしてたんだけどね。
宝塚リハビリテーション病院の発表本数が多すぎるってことで…半分を東京での発表に変更したんだ。
結果的に東京で京大の大畑先生と初めてじっくりお話しできて、ボキ的にはとっても収穫が多かったんだけどね。

その東京での発表。
本当はこの症例、サウンドシステムが劇的に効いた経過を発表しようとしてたんだけど。
ちょうどこの時期、川村義肢さんがまだサウンドシステムの特許が取れてなくて、発表は待ってくれ、ってことになってね。
急遽抄録を差し替えたのだ。
そんな思い出のある1本です。

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はじめに。
脳卒中片麻痺者に対する歩行訓練は、脳卒中治療ガイドラインでグレードAとなっています。
当院では重度片麻痺患者に対して長下肢装具を使用し歩行訓練を行うことが多いです。
しかし、長下肢装具の問題点として膝固定による歩容の変化が挙げられ、より正常な歩行を行っていただくための膝固定解除を、どの段階で行うかに関して一定の見解はありません。
そこで、T
-Supportという歩行補助具を使用することにより、膝ロック解除がスムーズに行えた症例を担当させていただきましたので発表します。


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そもそも、T-Supportとはどのような物かを簡単にではありますが説明させていただきます。
図のように体幹部分にハーネスを装着しています。
これにより体幹機能をサポートする機能を有しています。
そして、骨盤から膝まで弾性バンドが装着されており、この機能により遊脚期の振り出しの補助や膝折れの抑制などに効果を発揮します。


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症例は、年齢85歳、性別は女性、疾患名は脳出血(左被殻〜前頭葉)でした。

平成274月中旬に発症し、第33病日の5月中旬に当院に入院となっています。


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第104病日目の評価では、BRS は 下肢Uであり、重度の運動麻痺を呈していました。
当院入院後、約70日間長下肢装具により膝関節を固定した歩行を繰り返していました。
介助歩行中の介助量が減少してきたため膝固定解除での歩行トレーニングを検討しました。


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T-Supportを装着した歩行練習の効果検証を目的として、長下肢装具の膝関節の固定を解除した後方介助歩行動作においてT-Support未装着下・装着下の2条件で10m歩行の所要時間・歩数・荷重応答期の足関節底屈トルクFirst Peak値(以下FP)を計測しました。
計測はパシフィックサプライ社製
Gait judge systemを用いました。
計測は第
104病日と第125病日に実施しました。

(→動画スライド1枚目)

第104病日の動画です。
左の動画が膝ロック無し、右の動画が膝ロック無し、TSupport使用下での歩行です。
同日内で撮影した動画ですがIC時には膝屈曲角度の減少、Tsw時には股関節屈曲に伴う膝関節伸展が促されていることがわかります。
このT-Supportを使用した膝ロック解除歩行を約3週間程度繰り返しました。

(→動画スライド2枚目)
125病日目の動画です。
この動画では、
T-Support未使用下でもIC時には膝屈曲角度の減少、Tswには股関節屈曲に伴う膝関節伸展が促されており、3週間T-Supportを使用した歩行訓練を繰り返したことによりT-Support使用有無での変化が少なくなってきていることがわかります。


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結果として、104病日目ではT-Suppot無しのFP9.4Nm、有りが10.3Nmと介助歩行の方がFPが高くなっています。
しかし、
125病日目では、T-Support無しのFP値が10.9Nm、有が10.3NmTSuppot無しに向上が見られており、踵接地がうまく促せていることがわかります。


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長下肢装具膝ロック下での歩行トレーニングの問題として、大腿カフをセラピストが徒手的に牽引する方法では、股関節屈曲方向への誘導は容易ですが、それに伴ってターミナルスイングにかけてみられる膝関節伸展の動きが難しい傾向にあります。
それと比較して、T-Supportの弾性バンドは体幹前面を起始部とし、下腿前面を停止部としているため、セラピストの徒手的な介助では困難であった遊脚期での股関節屈曲に伴う膝関節伸展運動の誘導が容易に行えます。

その結果として、より膝関節が伸展した状況でイニシャルコンタクトを迎えることが可能となり、より強い踵接地から倒立振子機能を獲得することが可能になったと考えられます。
このことは、FP値の平均値がT-Support使用で向上したことからも推察されます。

このような歩行を繰り返し行ったことで、運動学習がなされ第125病日では、T-Support未装着下でもセラピストが大腿部を強く牽引する必要が無くなり、装着による利得は特にFPに関して低下しました。
このことから、長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいて
T-Supportを使用することは、従来よりもより早期に膝関節の固定を解除した運動を行うことを可能とするものであることが示唆されました。


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T-Supportを使用することにより長下肢装具による膝関節の固定解除がスムーズに行えた症例を経験しました。

この報告は、未だ一定の見解が得られていない膝固定解除の時期、方法を考える上での一助になると考えます。
 

プロフィール画像
ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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