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卒中八策 その二 たくさん歩けば歩くのが上手くなる

なぜたくさん歩いたほうがいいのか

理由1:起立-着席訓練や歩行訓練などの下肢訓

    練の量を多くすることは、歩行能力の

    改善のために強く勧められる(グレードA)

ソース:脳卒中ガイドライン2009

理由2:動作を繰り返すことで運動の学習がなされ

     やすいから

ソース:社団法人 日本作業療法士協会 広報誌
     Opera(オペラ)15 2011年3月号
     対談 脳科学に学ぶ
     池谷裕二(東京大学大学院薬学系研究科准教授)
     中村春基(日本作業療法士協会会長) 

 

理由3:運動学習理論上、技術を向上させるには、

    とにかく練習の量を増やす必要があるから

ソース:才藤栄一 他

     運動学習からみた装具−麻痺疾患の歩行練習において−

     総合リハ 386号 545-550 2010
理由4:下肢筋力を鍛える上では、単純な筋トレで

     はなく、歩行の筋収縮に近い状況での

     トレーニングがより効果的であるから

ソース:大畑光司


理由1についての解説

みなさん、ガイドライン、好きですか?

周りのセラピストに聴いてみると、意外と興味を持ってないヒトが多いように感じます。

こんなに貴重な情報があふれてるのに。

というわけで、たくさん歩いた方がいいという根拠も脳卒中ガイドライン2009、歩行障害に対するリハビリテーションに記載されてあるわけですね。

で、エビデンスの部分にはこう書いてあります。



通常の理学療法、作業療法に加えて歩行訓練などの下肢訓練を30分行うと、上肢訓練を30分加えた群や追加の訓練を行わなかった群に比べて20週時点で歩行能力がより改善した。

患側下肢集中訓練(下肢筋力強化を中心としたサーキット訓練)を行うと上肢訓練を行った群に比べて歩行速度、歩行耐久性が改善し、神経筋促通法を行った群より訓練終了時に改善し、歩行速度の改善は歩行訓練時間に相関した。

歩行訓練を主体に訓練するとその他の訓練に比べて歩行速度、歩行耐久性が改善する。



…まぁ、あたりまえと言えばあたりまえですが、普段我々が当たり前と思っていることでも、その根拠がしっかりエビデンスレベルで表現されているという部分に、やはりガイドラインというものの素晴らしさを感じるわけです。

ちなみに私の尊敬する吉尾先生が副院長を勤めておられる千里リハでは、殆ど患者を寝かさずに立位・歩行練習中心にアプローチしてるらしいです。

私自身、脳卒中の患者さんの理学療法ではほぼ患者さんを寝かせません。

というよりも、限られた時間の中で寝かせてる余裕はありません。

みなさん、無駄に寝かせてませんか?

患者さんに上手に歩いてほしいのならば、寝かせずに歩きましょう。

理由2についての解説

  このソース2011年3月の作業療法士協会の広報誌でOT協会の会長さんと東大大学院の
 脳科学の学者さんの対談記事です。

脳の記憶力は出力に依存する、って話です。

脳がどうやって記憶して、それをアウトプットするのか、ってことなんですけども。

脳の立場になって考えてみると、見えるもの、聞こえるものを全部憶えるのはとても無

理だ、パンクしてしまう。

必要なものだけ憶えよう、というように、脳は情報の取捨選択をしていて、本当に必要

なものだけを憶えます。

試験前は復習しなさいとよく言われます。もちろん、復習が大切なことは間違いない

そうです。

それはなんでか。

つい最近までは、復習をすることは、何度も脳に叩き込む作業だから、「この情報は何

度も繰り返し入ってくる。ということは、きっと大切に違いない。だから憶えておこう」と

いうのが、脳の判断材料だと間違って解釈されていました。

ネイチャーに3年前に掲載された論文では、脳内にいったん蓄えたものがあって、「こ

の情報、こんなに使う機会がある。だったら憶えよう」というスタンスをとっているのが、

脳だということです。

たとえば、ゴルフのスイングがうまくなりたい時に、スイングの上達の仕方という本を

10冊読んでも、絶対に上達しないわけで、打ち放しに行って動かなければうまくなり

ません。

ですから、出力することによって定着するんです。

2年前から記憶の研究に関する考え方が変わって、入力依存よりも出力依存のほう

が定着率が3倍ほど高いと言われるようになりました。

 

 

…非常にためになる話が山盛りです。

たくさん歩いたほうがいい、ということの根拠はここにあります。

 

では我々のトレーニングにおいてこれが実践できているかどうか、考えてみると、

出力の重要性は、理解されているようで実践されてないようにおもいます。

例えば歩行動作を獲得するために、ただ歩行動作を反復すればいいというお話(実際

にすごく多くのセラピストがこれをやる)になるのは気をつけたほうがいいということ。

入力と出力は常に循環していて(出力をするとそれに付随して入力はある)、好ましく

ない出力(たとえばものすごい破行が出てる状態での歩行など)を繰り返しているうち

に、好ましくない情報を学習し、非効率な運動を獲得するというのは臨床場面では多

くみられる と思います。

大切なことは、どういう情報を学習してほしくて、出力するのか? それを考えていくの

が、優れたセラピストの条件になってきます。

ですから、特に理学療法士は、機能が向上してきたから、こんな歩き方ができるようになった、ってなことをしててはいけない。

座位・立位の不安定なアプローチ初期から、最終的にどういうアウトプットをさせたい

のか、そのイメージをもって、運動刺激を入れていく必要があるのです。


理由3についての解説

さてソースの二つ目は才藤先生の運動学習理論を引っ張り出してきてみましょうか。
運動学習理論についてはとっても大切な話なので、少し長くなりますがしっかりまとめてお
きたいと思います。
2010年の総合リハで運動学習理論の連載講座がありまして、そこで藤田保健衛生大学の才藤先生が、片麻痺患者の歩行練習における装具の役割を、運動学習という観点から考察してました。
これが非常にためになる内容だったので、ここで紹介したいと思います。
 
・運動学習とは
学習とは、『経験によって生じる比較的永続的な行動の変化』と定義されます。
健常者の運動学習も、麻痺患者の運動学習も、基本は同じものであり、麻痺患者が麻痺肢を含む新しい身体状態で歩行機能を習得する場合、患者は新しいスキルを獲得することになります。
スキルを獲得する際の主要な変数は、
転移性
動機づけ
行動の変化
保持・般化
と考えられます。
 
・転移性とは
練習の最終目標となる課題を目標スキルといいます。
例えば屋内歩行自立を目指す患者では、『退院後に自宅屋内で歩行する』という課題が目標スキルとなります。
練習の成果は目標スキルに表れる必要があり、この発現を転移といいます。
通常、転移は課題特異的なものです。
つまり目標スキルに類似した運動課題を与えることで、目標スキルの運動性能が向上します。
ピアノを練習してもテニスはうまくなりません。
 
・動機づけとは
動機づけとは、『行動を始発させ、方向づけし、持続的に推進する心的過程・機能』を意味します。
治療者は動機づけが状況依存的側面を持っていることを理解しておく必要があります。
装具で考えると、『患者役割』が強い時期に『治療用』として導入するほうが受けいれられやすいと考えられます。
すなわち、『歩行を可能にする治療手段』であるほうが、『動かない足を代償する道具』より動機づけを得やすいのです。

・行動の変化とは
運動学習は、スキルを獲得し定着させる過程を指しますが、実際に測定されるのはその結果としての『行動の変化』であって、『学習』そのものではありません。
すなわち、一時的に獲得されすぐに忘れられる変化は学習とは呼びません。
しかし、行動の変化が学習の前庭であることは間違いありません。
練習による行動の変化で重要な変数は、
:量(頻度)
:難易度
:フィードバック
です。
→量(頻度)
 行動の変化は練習の量に依存して生じ、その練習量と頻度が重要な因子となります。
 有名なCrossmanの研究によれば、タバコ巻き工がその技術を習得するには300万回の
 経験が必要(1巻き:最初14.4秒、習熟時4.2秒)であると言われています。
 しかし入院中の練習量は不足しており、課題が十分に自動化されることはありません。
 そこで、臨床場面では練習量を増やすための工夫がクリティカルと言えます。
→難易度
 装具を用いた運動学習においてもっとも重要な変数と言われています。
 これについては卒中八策その三、において詳しく解説します。
→フィードバック
 フィードバックは運動学習における感覚情報の中心であり、フィードバックなしには学習は
 成立しません。
 運動の結果を知って初めて意味を持った課題実行となります。
 フィードバックには、視覚や固有感覚などを介した内在的フィードバックと、指示や筋電図 
 などで外部から与える外在的フィードバックがあります。

・保持・般化とは
行動変化が保持されて初めて学習と呼ばれます。
また、学習されたスキルは、応用可能である必要があります(般化、あるいは類似転移)。

 
…ここまでちょっと小難しい話が続きましたので、ざっとまとめてみようと思います。
片麻痺患者の歩行練習において、いかに運動スキルを獲得させるか。
その上で重要なことがいくつかあります。
・我々が実施するトレーニングは、目標とする動作に反映されやすいものなのかどうか、ということを考慮しなければなりません。反映されやすい運動とは、目標とする運動と類似している必要があります。つまり、歩行能力を向上させたいなら、歩く練習をしましょう、ってことです。
・次に、患者さんには装具というモノ自体を『治療用の道具である』という認識をしっかり持ってもらうことで、治療への動機づけを得られやすいようにしましょう。
・スキルを獲得させるには、とにかく練習の量を増やしましょう。我々のトレーニングではまだまだ歩行量が不足しています。どんどん歩きましょう。
ってところでしょうか。

だから、やっぱりたくさん歩かないといけないんですよね。
 

理由4についての解説

さて、理由の3つ目はボキが大好きな大畑先生の講習会の内容から解説してみましょう。
『脳卒中片麻痺の病態の本質とは、随意運動の障害である』
これは尊敬する吉尾雅春先生の非常にありがたいお言葉なわけです。
では運動とはいったい何なんだ?という部分を考えてみることが大切なわけですね。
 
img_20120812-061534.jpg
ニュートンの運動方程式
F=ma
恥ずかしながら私、物理は非常に苦手なんですが、この運動方程式は非常に重要です。
力学が苦手という方も多いでしょうが、この運動方程式は必ず理解しておく必要があります。
なぜなら、患者さんにどう上手く歩いてもらうかを考える上で、やはりこの部分の理解が必要だからです。
 
ざっとした表現では、この運動方程式の意味するところは、
質量の物体が力Fを受けるときその物体には受けた力に比例した加速度aが生じる、
ということです。
患者さんの歩行動作を考える時にどう応用するか。
歩行というのは端的にいうと質量を有した身体にどうやって加速度aを生じさせるか、という行為なんですね。
で、当然患者さんの身体質量mは変わらないなかで、我々理学療法士が日々のトレーニングにおいて変化させるのはFもしくはaなわけですよ。
つまり、上手く歩くためには筋力Fを向上させるか、もしくはその他の方法で加速度aを生じさせるか、これを考えれば良いわけですね。
 
というわけで、患者さんにどの程度筋力Fがあるか、という議論は避けられないからなんです。
その上で、まずは随意性と同時にその随意性のベースになっている筋力の特性というものをしっかり捉えておきましょう。

・ブルンストロームステージと歩行能力の関係
片麻痺の歩行能力の決定因子を論じるなら筋力の前に分離運動だろ?って思っているあなた。その考えは正しい。img_20120812-061643.jpg
これは大畑先生の講習会の資料です。
ブルンストロームステージは歩行速度と高い相関があります。そこは大前提として抑えておいてください。
じゃあ筋力と歩行能力にはどういう関係があるか。
img_20120812-061936.jpg
これも同じく大畑先生の資料です。

快適歩行速度での歩行スピード・ステップ数とも、筋力との相関が高いというデータです。

特に麻痺側の股関節、足関節の筋力との相関が高い傾向にあるようです。

ここで注目しておきたいのは、非麻痺側の筋力と歩行機能の相関は低いということです。

つまり非麻痺側の筋力に関しては、運動機能の決定因子ではない、ということ。

img_20120812-062007.jpg
これも大畑先生の資料です。

先ほどの表と、筋による相関はやや異なる部分がありますが、この研究では

マキシマムウォーキングスピードでの膝伸展筋力、コンフォータブルウォーキング

スピードでの足関節・膝関節・股関節の筋力と歩行機能との関連が高いようです。

この研究でも同様に、非麻痺側筋力はおしなべて相関が低いとなっています。

ここから、筋力と歩行機能に関連がある、特に麻痺側の下肢筋力というものが片麻痺患

者の歩行にとって重要な因子であるということがわかると思います。

 

・片麻痺患者で低下しやすい筋

筋力というものが片麻痺患者の歩行能力の決定因子の一つであるということが理解できたと思います。

じゃぁ具体的にどの筋が低下しやすいのか。

img_20120812-062055.jpg
 またまた大畑先生の資料ですけれども。

当然まんべんなく筋力は低下するわけですけれども。

このデータでは、特に足関節の底背屈の筋力が低下しやすいという傾向があるようです。

で、大畑先生はこうおっしゃってます。

快適速度歩行における10m歩行所要時間とステップ数、およびTUGのデータからは、

股関節 屈筋・伸筋   足関節 底屈筋

との相関が高い。
これ、とっても大事なことだと思います。
 
 
 ・ほんなら片麻痺の患者さんにどんどん筋トレしたらええんちゃうの?

img_20120812-062131.jpg

画質悪いなぁ…

いや、大畑先生の配布資料がすでに画質が悪かったんですよ。

これは下肢筋力トレーニングと歩行機能の関連についてのメタアナリシスです。

ここでどんなことが言われているかというと、

漸増負荷抵抗による筋力トレーニングは筋力増強には効果的だが、

機能的なパフォーマンスの改善には疑問が残る

(MorisSLet all 2004)

運動機能に対する筋力増強効果は“poor or insufficient”

(Eng JJ 2004)

つまり、筋力トレーニングによって筋力は増強するものの、結果としての運動機能の向上

にはつながりにくい、という傾向にあるそうです

img_20120812-062207.jpg

そこで、歩行機能向上のための筋力トレーニングに求められるコンセプトとして、
課題依存性
というものが重要なキーワードになってきています。

つまり、筋トレのための筋トレではなく、実際に歩行動作を行うなかで、いかに歩行の

筋収縮に近づけた状態で筋力トレーニングを行うかということが重要なのであろう、という

ことだろうと思います。

そして、その実際の筋収縮に近づけた状態での筋力トレーニングこそが、装具を用いた歩行練習であることはもう明白なんですなぁ。

おまけ:じゃあ何歩歩けばいいのかと

確かこのあたりは京大の市橋先生がいろいろ調べておられたはずです。


img_20120721-065158.jpg

筋力の維持や筋萎縮防止のため、歩行量が重要であるとした報告は多いそうで

す。

とある調査では、健常中高年では日常生活の歩行量が4000歩未満では、明らかな

麻痺やその他疾病がなくとも筋力と筋横断面積が減少すると報告しています。

廃用性筋萎縮を防止するには日常生活と同じ程度の筋活動量を確保することが必

要とされてるので、この調査をベースにすると、可能であれば患者さんも1日4000歩

歩くことが必要と思います。

img_20120721-065214.jpg

ちなみにこれは1日の歩数の推定値ですね。これも確か市橋先生だったかな。

無職老人2800歩。

この表からも、これはあくまで個人的な意見ですが3000歩は確保したいなぁと思い

ます。

img_20120721-065237.jpg

これも市橋先生。

4000歩に相当する筋力トレーニングは、スクワットだと160回前後・立ち上がり練習

300回前後・自転車エルゴメータで15〜16分です。

こうしてみると、自転車エルゴメータは非常に優秀なトレーニングであることがわかり

ます。

img_20120721-065257.jpg

これも似たような研究で、高知大の研究だったと思います。

腓腹筋の廃用性筋萎縮を予防するため運動療法メニューの適切な運動回数を検討

しています。

低活動状態を想定し,6,000歩の筋活動量と対応する各運動療法メニューの回数を

求めた、と。

出典は『運動療法中の腓腹筋筋活動と1日歩行量の関連 西上 智彦』 です。


img_20120721-065318.jpg

メニューは(1)端坐位片足踵上げ(体重の5%の重錘を負荷した状態),(2)立位両足

踵上げ,(3) 立位片足踵上げ,(4)つま先立ち歩行,(5) 最大等尺性足関節底屈運

動で、6000歩に対応する回数は、例えば立位の踵上げで500回〜600回と言われ

ています。

京大の市橋先生の資料でも、臥床中に大腿四頭筋に対して高負荷低頻度のトレー

ニングを行ったが,筋力増強効果はなく,筋萎縮が起こったという報告をされてま

す。

この文献では下腿三頭筋は臥床時に大腿四頭筋よりも筋萎縮が生じることが報告

されており,より廃用性筋萎縮の予防が必要だということです。

無論、例えば急性期であれば安静度による制限、循環動態のリスク、その他もろも

ろの条件があると思いますし、回復期でも何千歩も歩行できる患者さんは少ないと

思いますが、それでも理学療法士である我々が患者さんを1歩でも多く歩かせる努

力をしてるか、という部分には、正直疑問を感じざるを得ません。

  

みなさん、兎に角患者さんをたくさん歩かせましょう。 


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ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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