卒中八策 その五 立脚中期に重心をしっかり持ち上げよう

なぜ立脚中期に重心を持ち上げた方がいいのか

理由1:立脚中期に重心位置を上げることが次の一歩の運動エネルギーに繋がってゆくのだ

ソース:大畑光司

理由1についての解説

この卒中八策その五は、非常に重要であり、歩行という動作の根幹を示すものであり、
これ以上重要な策は無いと言えます。
歩行トレーニングの目的のすべての根幹を為すものだと言えます。
その他の七策はすべて、この『五』を達成するために存在すると言っても過言では無い
でしょう。

ではその理由を以下に述べて行きます。

まずは京大の大畑光司先生の文献を参考に、歩行の力学的なパラダイムである
「倒立振子モデル」および、それを保障するために重要な機能である下肢のロッカーファ
ンクションを解説し、脳損傷後片麻痺患者の歩行の力学的な問題点についてまとめて
おきます。


・歩行動作の力学的パラダイム

通常,歩行は非常にエネルギーコストの低い移動動作であり、必要なエネルギーは

安静時代謝量から50%増加するに過ぎないと言われています。

このような低エネルギーコストの移動を実現するために、歩行動作は非常に巧みな力

学的特徴を有しています。

歩行,走行などにおける力学的な特徴を説明するために必要なエネルギーは「位置

エネルギー」,「運動エネルギー」および「弾性エネルギー」です。

この 3つがそれぞれの移動動作の間で変換されることにより,効率的な移動を可能に

しています。

歩行についての力学的なパラダイムは一般に「倒立振子モデル」もしくは「回転卵モ

デル」と呼ばれ,古くから知られています。


・位置エネルギーと運動エネルギー
img_20120720-172407.png
この図は左が健常歩行、右が片麻痺歩行を表しています。

歩行動作では、踵を床に付ける初期接地の時期に、進行方向への身体重心の移動

速度は最大になります。

このため、この時期の(進行方向への)運動エネルギーは最大となります。

次に、立脚期の前半までの間に、運動エネルギーは徐々に失われます。

しかしここで運動エネルギーは単に失われるわけではなく、身体重心が上昇すること

により位置エネルギーに変換されています。

立脚期の中間地点で位置エネルギーは頂点に達し、後半に入ると身体重心の低下

に伴って、位置エネルギーが徐々に失われます。

しかしここでの位置エネルギーも単に失われているのではなく、重力により加速され、

運動エネルギーに変換されています。

つまり、立脚期の間に運動エネルギーから位置エネルギー、位置エネルギーから運

動エネルギー、というようにエネルギーを変換することにより、トータルの力学的エネ

ルギー(つまり運動エネルギーと位置エネルギーを足したもの)はほとんど変化しない

ことになります。

このような力学的なパラダイムが、効率的な歩行を可能にしています。

片麻痺患者の歩行では、この位置エネルギーと運動エネルギーの交換がスムーズ

に行われません。

倒立振子の初速を得るには,遊脚期の運動エネルギーを効率よく次の立脚期の倒立

振子に維持して伝える必要があるが、片麻痺の特徴的な歩容では次の倒立振子を

振るための運動エネルギーが得られなくなります。

じゃぁその原因は何なのか?

それについてはまぁ、そのいろいろあるわけです。

多くの場合、以下に述べるように卒中八策 その四であることが多いと感じます。

けれども、その四ができていない根本的な原因は何かと考えると、その六が原因に

なってる場合が多いですし、その六ができていない原因はその七あるいはその八で

ある…とまぁ複雑に絡み合っているわけです。

けれども、これだけは絶対に間違いないのは、それらの逸脱動作が理学療法場面に

おいて修正されるべき問題であると考えられるのは、それらによってこの『その五』が

現れてしまうからなのです。

それほどに、立脚中期において重心を持ち上げることができないということは、効率的

な歩行動作から決定的にかけ離れてしまうということです。

それはやはり、上で説明した通り、歩行動作とは立脚期の間に運動エネルギーから

位置エネルギー、位置エネルギーから運動エネルギー、というようにエネルギーを変

換する作業の繰り返しであるに他ならないから、なのです。




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ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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