第26回大阪府理学療法学術大会で講師をしてみた

さて、先日ボキの人生で初めて、学会で講師を務めるという大役を任されたわけだが。

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これですよ、これこれ。
第26回大阪府理学療法学術大会。
ここでボキがランチョンセミナーの講師を務めたわけさ。
なんでも大会のテーマが『忠犬中堅理学療法士』だったとかなんとかで、ボキにチャンスがやってきたわけです。
で、必死のぱっちで準備したスライドたちと原稿。
自分で言うのもなんだが、結構まとまった良い内容なのだ。
だからここで公開しちゃおう。
ということでさっそくパワポのスライドと読み原稿をセットでここに披露します。

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宝塚リハビリテーション病院で理学療法士をしております、中谷知生と申します。
本日は数あるランチョンセミナーの中から私のセミナーを選んでいただいたことに感謝します。
本日お話する内容ですが、非常に端的に申しますと、

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脳卒中片麻痺患者さんの治療効果を高めるには歩行速度を上げればよい、というお話です。
最近話題の『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』みたいなニュアンスですけれども、まぁそういうことなんです。
なぜ歩行レーニングの速度を向上させることが治療効果を高めるのか
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これは2010年のアメリカの論文です。
発症後30日前後の脳卒中患者を強制的に早く歩かせた群とそうでない群に分けて歩行能力を比較したんですね。
強制的に歩かせる、というとちょっと暴力的な印象を受けるかもしれませんがそうではなくて、歩行練習時にセラピストが患者さんに、歩行速度を可能な限り向上させるように励ますんですね。
そして毎日のトレーニングの中で、10m歩行の所要時間がどれくらい短縮してきているか、ということをフィードバックします。
すると、10m歩行速度、3分間歩行距離などが、コントロール群に比べて有意に向上した、という内容なんですね。
この論文では歩行速度の向上が具体的に身体機能にどのような影響をもたらすのか、ということについては触れられていませんが、速度を向上させることを重視したトレーニングの有効性について、私は非常に強く共感するんですね。
なぜならば、私自身が普段の臨床場面において可能な限り歩行トレーニングの速度を向上させることで高い治療効果を実感しているからです。
そこで本日お話する内容は、

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まず、脳卒中片麻痺患者さんの歩行速度を向上させることにどんな意味があるのか、を文献的考察を中心に整理してみます。
ここで『ああなるほど、速く歩くということが大事なんやなぁ』という気持ちになっていただきます。
で、そこからは歩行トレーニングの速度をj向上させるために私が臨床で使用している道具を2つご紹介します。
ひとつは私どもと川村義肢さん共同で作成している、T-Supportという歩行補助具ですね。
そしてもう一つがCVAidという、オランダで開発された歩行補助具です。
CVAidに関しては今年の5月に私が自腹でオランダまで参りまして、現地取材をしてきましたので、その時の様子なんかも動画でご紹介します。
では早速本題に移ります。

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まず第1章では、脳卒中片麻痺患者の歩行速度を向上させることにどんな意味があるのか、ということを考えてみたいと思います。
皆さんは片麻痺患者さんの治療を行う上で、アウトカムとしてどれくらい歩行速度を重視しておられるでしょうか?
当院は臨床経験の浅いスタッフが比較的多いのですが、彼らと話をしてますと、患者さんの身体機能についてものすごく細かい評価をしているなぁ、と感心する一方で、意外と歩行速度については非常にざっとした評価となっている場合が多々あります。
これが結構不思議なんですね。
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脳卒中理学療法診療ガイドライン2011でも、理学療法評価において10m歩行テストは非常に感度の高い評価方法とされており、推奨グレードAとされています。
なぜ10m歩行テストによって歩行速度を把握することが有用とされているのか。
それは、10m歩行所要時間から、その患者さんの社会生活がある程度予測できるからなんですね。
みなさんも良くご存じの歩行分析の神様、ペリーさんが1995年、有名なデータを発表しています。

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片麻痺患者の歩行速度は、参加制約に直結する因子である、という話ですね。
片麻痺患者はどれくらいの速さで歩行できるかによって、活動範囲が決定されるんですね。
ここでペリーは日常生活においてどれくらい歩行するか、によって患者さんを3種類に分類しています。
屋内外ともに歩行で生活する人これがCommunity Ambulatorです。
Community Ambulator であるにためには、歩行速度が0.8m/sec、言い換えると、10M歩行所要時間が12.5秒以下である必要があるとされています。
屋内は歩行だが、屋外での長距離移動などでは車いすなどを利用する人、これがLimitedCommunityAmbulatorです。
このためには歩行速度が0.4m/sec、10M歩行所要時間が25秒以下である必要があるとされています。
それよりも歩行速度が低いと、屋外での歩行が困難な人、これがHouse Hold Ambulatorになります。
このように、片麻痺患者さんはその歩行速度によって参加に制約を受けるわけです。
こういった研究は比較的多くて、つい先日の理学療法学でも慢性期脳卒中片麻痺患者の地域における移動能と歩行速度に相関関係がある、という原著論文が掲載されていましたので、目にされた方も多いかと思います。
このように、脳卒中片麻痺患者の歩行練習においては、アウトカムとしての歩行速度が非常に重要なんですね。


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この表は1999年の論文です。
20代から50代、60代から80代、および片麻痺患者の最大歩行速度と、と酸素摂取量、心拍数などを比較しています。
片麻痺患者では一般の高齢者に比べても、歩行速度の低下が著明です。
そして、歩行時の酸素摂取量自体はそれほど落ちていないんだけれども、歩行速度の低下が影響して、1m進むための酸素摂取量が増大する、つまりエネルギーコストが高くついている、という表です。
この1m進むための酸素摂取量0.27という数値を覚えておいてください。

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こちらは健常人が膝関節を無理やり屈曲位にして歩いたら、どれくらいエネルギーコストが上がるかというデータですね。
これ見ると、歩行時に膝関節を45°位で歩行すると、1m進むための酸素摂取量は0.22rです。
片麻痺患者はこの値が0.27でした。
つまり片麻痺患者の歩行とは、膝関節を45°屈曲位で歩行するのよりもしんどい、という話になってきます。
逆に言うと、健常者の歩行というものは、それだけ効率的なんですね。
では健常歩行のその効率性を担保しているものは何か。
それはやはり歩行速度なわけです。
歩行速度がエネルギーコストを左右する。
なんでか。

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このグラフはサイベネさんの論文ですね。
縦軸がエネルギーコスト。横軸が移動のスピードを表しています。
この表で、左端の方でV字みたいなカーブを描いてるグラフがあります。これが、歩行速度とエネルギーコストの関係を表しているんですね。
歩行のエネルギー効率はスピードが高すぎても低すぎても、エネルギーコストが上がってしまうんですね。
エネルギーコストの観点から、ちょうどいい速度というものがあるわけです。
このちょうどいいくらいのスピードというのは、健常者で言うと時速4キロ前後とされています。
なぜ速度が低下するとエネルギーコストが上昇するか。
それは、両脚支持期から単脚支持期へと重心を持ち上げるのに、いっぱい筋力を必要とするようになるから、とされています。
歩行スピードの落ちる脳卒中片麻痺患者で歩行時のエネルギーコストが上がってしまう最大の要因もここにあります。
脳卒中片麻痺患者は歩行時に身体重心を持ち上げるのに必要以上のエネルギーを消費します。
その最大の要因はみなさんもよくご存じだと思いますが、倒立振子が獲得されていないことが原因です。

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これは私の大好きな京大の大畑先生の論文ですね。
歩行を力学的に観察すると、踵接地時に運動速度が最大になります。
ここから立脚期にかけて運動エネルギーは徐々に失われながら、身体重心が前上方に持ち上げられることで位置エネルギーに変換されていきます。
立脚期後半に入ると位置エネルギーは徐々に重力による加速で運動エネルギーに変換されていきます。
こうして、立脚期に運動エネルギーから位置エネルギー、位置エネルギーから運動エネルギーというエネルギー交換が行われることで効率的な歩行動作が可能になるとされています。
多くの脳卒中片麻痺患者ではこのエネルギー変換がうまく行われないんですね。

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これは国際医療福祉大学の山本澄子先生のデータですね。
上は健常歩行の重心の上下動です。
きれいなサインカーブが描かれています。
青の部分が両脚支持期で、このとき重心位置が最も低くなり、片脚立位時には重心が最も高くなります。
下は片麻痺患者さんが装具を使用せずに歩行した際の重心の上下動ですね。
健常人と比較すると特にこの麻痺側立脚期に重心がうまく持ちあがっていないということがわかります。
で、この問題点に対して、我々は下肢装具を用いて解決を試みるわけですね。
下肢装具の目的は個々の症例ごとに異なる点はありますが、歩行のエネルギー効率を考えると、やはりこの部分、踵接地からどうやって重心を持ち上げるのか、という部分に集中してくると私は考えています。

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下肢装具を上手に使いこなすと、片麻痺患者の歩行における最大の問題点である、倒立振子の獲得において非常に有用です。
多くの片麻痺患者さんで用いられる、SHBあるいはゲイトソリューションといった、バネや油圧による弾性を用いた装具は、初期接地から荷重応答期にかけての足関節の底屈動作に制動をかけて下腿の前傾を補助し、重心を持ち上げることを手伝ってくれます。
ここで留意しなければならないのは、装具が底屈制動力を発揮するには、初期接地時にある程度の速度が必要だ、ということです。
ゆっくりと接地したのでは、装具が重心の持ち上げを手伝ってくれないんですね。
ここでしっかりと荷重して、床反力を用いて、ヒールロッカー機能を補助して、重心を持ち上げることが重要です。

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ところが、多くの患者さんではこの下肢装具のもっとも重要な機能をなかなか引き出せていないように見えるんですね。
そのために、身体重心をうまく持ち上げることができない患者さんを私はよく見かけます。
ここでとある患者さんの動画を見ていただきます。

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この方は4年ほど前に当院で私が担当させていただいた左片麻痺の患者さんですね。
下肢のステージは3、この動画の時点で発症から約6か月が経過しています。
この動画は川村義肢社製のゲイトジャッジシステムを使用したものですが、とりあえず歩行の様子を見てください。
左下肢にゲイトソリューションデザインを装着して歩行していますが、立脚中期にかけて膝関節の急激な伸展が起こっています。
当初私は左下肢の筋力が不足していることが問題であると捉えて、麻痺側の体幹や臀部を強化することに主眼を置いたトレーニングを実施していました。
ところが歩容が全然変化しないんですね。
そんなある日、私は某吉尾先生の研修会に参加しまして、長下肢装具の有用性を知って衝撃を受けるわけです。

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そこで、左膝固定用のニースプリントを装着した状態で、上肢の支持物無しで、麻痺側下肢を速度を落とさずにしっかりと荷重をかけるトレーニングを始めました。
これはそのトレーニングを開始した初日ですね。
患者さんは片麻痺発症以降6か月間、常に右上肢で何かを把持する状態での立位歩行を繰り返してきていたので、上肢支持の無い状態での歩行に対してすごく不安そうな動作となります。
これを5日間繰り返しました。

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こちらが5日後です。
歩行速度が向上して、踵接地から重心をしっかりと持ち上げることができていることがよく分かると思います。
この4年前に担当させていただいた患者さんの5日間での変化が、私の治療概念に大きな影響を与えたんですね。
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多くの片麻痺患者さんでは、強い踵接地ができていません。
その結果、装具の制動力が発揮されていないことになります。
そのために、身体重心が上方へと持ち上がりにくく、
結果的に歩行速度が向上しない。
歩行速度が向上しないために、次のステップでの強い踵接地が行えない、というスパイラルに陥るわけです。
患者さんの歩行能力を向上させるには、この循環をどこかで止めなければならないわけです。
この連鎖をどうやって止めるのか?
最初に海外の文献をご紹介しました。
強制的に歩行速度を向上させることで歩行能力が向上するという論文。
その原因はいろいろ推察できると思いますが、私は一つ、速度を向上させることで片麻痺患者の歩行の最大の問題であるスムーズな重心の持ち上げ、という部分を解決する糸口になっているんではないかと考えています。
だから私はトレーニングにおいて速度を向上させることを重要視しているんですね。
そこで本日は歩行速度を向上させる方法のひとつとして、弾性バンドで麻痺側下肢をひっぱってみたらどうでしょうか、というお話をさせていただきます。
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ここまでをまとめます。
歩行速度の低下は片麻痺患者の参加制約に直結する因子です。
その理由は、速度低下によりエネルギーコストが増大することに起因しています。
よって、片麻痺患者の理学療法においてアウトカムとしての歩行速度を向上させることは、装具を使用している場合には装具の制動力を引き出すことにもつながりますし、その結果として歩行のエネルギーコストを減少させることに繋がることである、と私は考えています。

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じゃぁ歩行速度を向上させるためにどのような方法があるのでしょうか?
ここからが本日のメインテーマになるわけですが、本日ご紹介するのが、T-SupportとCVAid、という歩行補助具2つなんですね。
まずはT-Supportについてご紹介します。

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皆さんほとんどこのT-Supportという言葉を耳にすることが初めてだと思いますので、T-Supportとは何か、という説明をさせていただきます。
当院では片麻痺患者さんの歩行トレーニングの初期に長下肢装具をよく使用します。
長下肢装具はさきほどの倒立振子を獲得させて、麻痺側立脚期の機能を向上させる上で非常に便利な道具なのですが、一方で多くの患者さんが遊脚期に非常に苦労するんですね。
何と言っても重たいですし、膝関節の自由度が制限されますので、スイングの際に代償動作が出現したりします。
そこで、長下肢装具にゴムバンドを巻きつけて引っ張ることでもっと速度を上げて、かつ楽にスイングできるようになるんじゃないか、というのがT-Supportなんですね。
最初は長下肢装具用に作成しました。
その後、短下肢装具用のバンドも開発することになります。
ですから、T-Supportとは、歩行補助具としてのゴムバンドの総称なんですね。
で、現在長下肢装具用と短下肢装具用の歩行補助具をいろいろ作って、その効果をあっちこっちの学会で発表しているわけです。 今日はランチョンセミナーということですので、あんまり堅苦しい話はせずに動画を中心にいろいろご覧いただこうと思って準備してきました。
動画をご覧いただく前に、T-Supportの話をすると時々ご質問いただくことがあります。
T-SupportTって何なんですか、と。
まずはそこからお話しようかと思います。


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T-SupportのTには3つの意味が隠されているんですね。
一つは、私の職場である宝塚リハビリテーション病院のT。
もう一つは、体幹、トランクのT、ですね。
-Supportは基本的に体幹部分をコルセットで支持しますので、その機能を表しています。
で、3つ目が、私、中谷知生と申しますが、そのトモキんのT、ですね。
これ、まぁどうでもいい豆知識ですね。
ではいよいよ、ここから、T-Supportの動画をご覧いただきますが、その前に、本日お見せする動画のほとんどは川村義肢社製のゲイトジャッジシステム、という歩行分析装置で撮影したものなんですね。

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当院では2010年から初代ゲイトジャッジシステムを、2013年から2代目ゲイトジャッジシステムを使用して、臨床場面における簡便かつ定量的な歩行分析を行っています。
本日ご覧いただく動画はおおむねこちらの初代ゲイトジャッジシステムで撮影したものです。
まず患者さんのデータを見ていただく前に、健常歩行のゲイトジャッジのデータをご覧いただきたいと思います。

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これは当院に在籍して、今はもうやめてしまったとあるスタッフの歩行の様子ですね。
彼はもう別の病院で働いているのですが、こうやって私がゲイトジャッジの話をするたびにいまだに登場することになります。
で、まぁそんなことはどうでもいいんですが、ゲイトジャッジシステムでは歩行時に装具に発生する底屈制動モーメントを測定することができるんですね。
底屈制動モーメントは一番上の赤い波形で表示されます。
さらにこの真ん中の部分では歩行時の股関節屈曲伸展角度、足関節底背屈角度の測定が可能です。
踵接地時にこの赤い波形が鋭く立ち上がっているということは、装具が大きな力で重心の持ち上げを手伝ってくれている、というふうにとらえていただくとよろしいかな、と思います。
まぁ本日はあんまりこのゲイトジャッジの細かいデータの変化についてご紹介するような話ではございませんので、なんとなくニュアンスで捉えてください。
ではちょっと説明が長くなりましたが、当院で長下肢装具用のT-Supportの誕生した瞬間を記録したデータがありますのでご覧いただきます。

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この動画は非常に記念的な動画なんです。
まさにこの患者さんがT-Supportの原点なんですね。
もう3年ほど前になると思います。
この方は左片麻痺で、長下肢装具を使用して歩行練習をしていました。
当初は麻痺側下肢のスイングをセラピストが徒手的に補助していたのですが、徐々にこのようにご自身でもスイングができるようになりました。
セラピストが引っ張るほどではないのですが、ご自身の力だけで歩行していただくとなかなか速度が向上しません。
どうにもスイングのスピードが上がらないし、体幹側屈なんかの代償動作も出てくる、と。
そこで、訓練室にあるセラバンドをベルトのように腰に巻き付けて、股関節前面にもう1本セラバンドをくくり、長下肢装具の大腿カフに巻き付けて引っ張ってみました。

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このように、腰にセラバンドを巻き付けて、そこからもう一本セラバンドを長下肢装具の大腿カフに巻いてます。
こうやって股関節前面でセラバンドが長下肢装具を引っ張るようにくくりつけています。
すると歩行速度が向上します。

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比較してみます。
左がセラバンド無し、右がセラバンド有り、です。
まず、歩行速度が向上しているということがよく分かると思います。
さらに注目していただきたいのが、この青いグラフですね。
これは股関節の屈曲伸展角度を表しています。
上が屈曲、下が伸展です。
セラバンドの有無で比較してみると、セラバンドを使用することでターミナルスタンスでの股関節伸展角度が拡大するんですね。
股関節屈曲を補助することで伸展角度が増大する。
これは面白いな、と。

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これは某吉尾先生の資料から持ってきた写真です。
みなさん良くご存じだと思いますが、脳卒中片麻痺患者の歩行練習において股関節をしっかり伸展させるということは非常に重要なんですね。
左の写真は股関節屈曲位での腸腰筋の様子です。
右は股関節を伸展させる。
すると、小転子によって腸腰筋がぐっと押される。
これにより、より自動的な股関節屈曲運動が可能になるとされています。
ですから、私は普段のトレーニングでもよく片麻痺の患者さんに股関節を伸展するようにアドバイスするんですが、これがなかなか難しいんですね。
やっぱり多くの患者さんは非麻痺側下肢を大きく前に出す、ということに不安があるんでしょうね。
なかなか前型で、麻痺側股関節をしっかり伸展させるということが難しいんです。
ところが、セラバンドを巻いて、股関節屈曲を補助することで、股関節伸展角度が増大する。
これはなかなかいいトレーニングになるんじゃないか、ということで、

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こんなものを作ってみました。
これが初代のT-Supportですね。
腰にベルトを巻いて、股関節前面のゴムバンドを長下肢装具の大腿カフに巻きつける。
先ほども申しましたが、麻痺側股関節を伸展させた時にゴムバンドが引っ張ってくれる。
非常に単純な構造です。
ただ、これを臨床で使用する事に対して若干の不安はありました。

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それは、ゴムバンドを装着しているときは当然麻痺側下肢がスイングしやすくなるけれども、結局バンドに依存してしまうんじゃないだろうか、ということです。
で、おそるおそる臨床で使い始めたんですが、本格的に使用した症例を通して、そのような心配は必要ないということがわかります。

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この患者さんは我々が初めてT-Supportを継続的に使用した症例ですね。
使用初日です。
麻痺側下肢のスイングは自己では困難で、T-Supportを使用しています。
使用していますが、まだまだ体幹の側屈なんかは強く出てますね。
セラピストもT-Support自体をグイグイ引っ張っています。
で、このトレーニングをしばらく継続します。
先ほども申しましたが、この患者さんで初めて継続的にT-Supportを使用したんですね。
はたしてこんなゴムバンドで引っ張ってて、引っ張ってるときはええけども、外したらもとに戻ってしまうんじゃないか、という不安感とももにトレーニングをすすめます。

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1か月ほど使用しました。
T-Supportを外した状態での長下肢装具を用いた歩行動作です。
当初危惧していた、T-Supportへの依存はありません。
ご自身でしっかりとスイングできるようになっています。

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同じ日の短下肢装具での歩行です。
まずまずの1か月ほど使用しました。
T-Supportを外した状態での長下肢装具を用いた歩行動作です。
当初危惧していた、T-Supportへの依存はありません。
ご自身でしっかりとスイングできるようになっています。歩行速度で、踵接地をしっかりとつくって、装具の底屈制動力を引き出した上で倒立振子が獲得されました。
これは面白い道具ができたんじゃないか、ということで、症例を集めてみて運動が実際にどのように変化するのかを調べて、学会で発表しました。

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これがそのデータなんですが、長下肢装具を使用した歩行トレーニングを行っている6名の片麻痺患者さんでデータをとりました。
こちらは最終的に義肢装具学会誌で論文として掲載されましたので、興味のある方は読んでみてください。
10m歩行所要時間の比較ですね。
左が長下肢装具のみ、右がT-Supportを装着しています。
装着で歩行速度が有意に向上します。

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で、先ほどから私がこだわっている麻痺側股関節の伸展角度ですね。
これはちょっと微妙な感じになりまして。
伸展角度が増大する人もいれば、むしろ減少する人もいまして、有意な変化は見られませんでした。

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でまぁその原因を考えてみると、やはり体幹機能という部分が問題になってくるんですね。
これ、装着するとバンドが結構強く体幹を引っ張ります。
これは私の仮説ですけれども、体幹の支持が不十分な症例ではこのバンドのテンションがむしろ害になる可能性もあるんじゃないか。
もう少ししっかり体幹伸展を補助して、股関節前面筋を参加させやすいようなアライメントを作ったほうがいいんじゃないか、ということで、ここからいろいろ試行錯誤するわけです。

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まぁいろいろ作りまして。
長下肢装具用のタイプLは初代・二代目・三代目とあるんですね。
二代目がこちらですね。
従来のものに加えて体幹部分にベルトを着けてみようか、という作品ですね。
ちなみにCVAidのデザインをご存じの方はぴんと来るかもしれませんが、このデザインはCVAidをまぁまぁパクッてます。

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こちらは重度の右片麻痺ですね。
長下肢装具を作成してすぐの状態です。
評価として膝ロックを解除して歩いてみるとこんな状態です。
このように運動麻痺が重度であればあるほどしっかりと装具の力を引き出すことが重要になってくると思います。
で、二代目T-Supportが活躍します。

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左上が長下肢装具作成当初ですね。
このときはバンドで引っ張ってもスイングが困難なため、結局セラピストがバンドを引っ張るという形になっています。
真ん中はそれから2週間ですね。
徐々にご自身とT-Supportの張力で歩行可能となってきます。
右下は装具作成から2か月経過ですね。
T-Support装着下で随分と歩行速度が向上しています。
あ、ちなみにみなさんもうお気づきかと思いますが、当院では理学療法場面において結構長く長下肢装具を使用します。
カットダウンの明確な基準というのはどうなんでしょう、まだ統一された見解というものは見られないように思うのですが、我々としてはうまく倒立振子を作る上でメリットがあると判断して比較的長く使います。
無論訓練場面以外ではカットダウンしてADL場面で使用しつつ、という感じになりますが。

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少し話がそれましたが、先ほどの症例の歩行をゲイトジャッジの画面で比較してみます。
左はT-Supportなし、右はT-Supportありです。
こうして比較すると、やはり装着時の方が歩行速度が向上していることがわかります。

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この方はBRS下肢3でしたが、最終的に短下肢装具のみでフリーハンド歩行がまずまず上手に獲得していただけました。
比較的若年で、理解力もしっかりしておられたのでできた部分もあるのですが、ある程度重度の麻痺でも、イニシャルコンタクトのスピードを落とさずにグッと踏みこめると、これくらいの歩行動作が可能になってくるということを私は学ばせていただきました。
この症例に関しては2013年度の日本義肢装具学術大会の抄録集にまとめてますので興味のあるかたはご参照ください。
で、この二代目Tサポートでのこだわりはゴムバンドだけで引っ張るだけではなくて、体幹もしっかりと支えた方がいいんじゃないか、ということでした。
その目的で体幹部にバンドを追加してみたんです。
無論初代に比べると随分と体幹をサポートする力は向上したように思うんですが、

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やっぱりベルトが軟弱なんですね。
そんななか、これは2年ほど前になりますが、国際医療福祉大学の勝平先生にお会いしまして、勝平先生が当時トランクソリューションという体幹装具を開発されて、この体幹前面筋をしっかりと伸長させることで高齢者や片麻痺患者の歩行能力を伸ばせるんじゃないか、という論文を書いておられたんですね。
なるほどこちらに比べると二代目の体幹バンドはあまりにも軟弱だったかな、と反省しまして。
そこで作ったのが三代目ですね。

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こちらですね。これが三代目となります。徳川家であれば家光ですね。家康・秀忠ときての家光ですね。
従来のものに加えて体幹支持のためにコルセットを使用しています。
そしてコルセットにハンドルをつけています。
よく理学療法士が患者さんの運動を操作する際にハンドリングなんて言ったりしますが、私のアイデアは実際にコルセットにハンドルを装着して、セラピストがハンドルを握って操作する、というこれは我ながら画期的なアイデアだと自負しています。
ではこれを使用することで長下肢装具を用いた歩行能力がどのように変化するのか。
また同じように動画を見ていただきます。

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実際に使用しているところですね。
後方からセラピストがハンドルを握って操作しています。
ちなみにこの介助歩行をしている男の子は2年目でかなり軽量級ですね。
ちょっと重たい人を介助するとそっくり返ってしまう。けっこうなポイズンになるわけですけれども、しっかりとハンドルを握ることであんまり高ポイズンにならないわけですね。
で、バンドが装具を引っ張って速度を上げてくれる、という構造ですね。
これの効果検証は今年度の理学療法学術大会で発表しています。

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また興味ある方はじっくり読んでみてください。
まず歩行速度が向上します。
これは従来のT-upportと同じですね。

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ステップ数も有意に減少します。

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股関節屈曲角度は著明な変化がないですね。
これが歴代T-サポートの面白いところで、屈曲補助バンドなんですけど装着により屈曲角度はそう変わらない。
おそらくバンド自体はそんなに太くないので、そこまで強烈に引っ張ってはいないと思います。

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そして、体幹支持機能を追加することで初代のT-upportとの最大の違いはここですね。
股関節伸展角度が有意に拡がります。
今年度から川村義肢さんがいよいよ商品化に向けて動いてくださっているというお話なんですが。
どうなんでしょうか、私自身はなかなか便利な道具だと自負しているのですが、果たしてみなさんにうけいれていただけるのかどうか。

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適応となる患者さんを結構選ぶのかな、と私自身は考えています。
どんな患者さんにメリットをもたらすか。
当然ながら、長下肢装具を使用して歩行トレーニングを行っている患者さんで 、
最初に動画でもご覧いただきましたが、何とか自己にてスイングはできる、もしくは軽く介助するとスイングできる、という患者さんに有用かと考えています。
ただ、どうなんでしょうか。長下肢装具である程度スイングできるようになってくると、現状ではトレーニング時にもさっさとカットダウンすることのほうが多いと思いますので、そこが難しいところやな、という状況です。
というわけで若干使用場面が限られているとは思うのですが、これはなかなか面白い道具ができた、と。
じゃぁ次は短下肢装具でも同じような効果が出せないか、ということになってくるわけです。

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短下肢装具用の補助具を作ってみよか、と。

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こちら、T-Support typeS、ですね。
基本的にはtypeLと同じコンセプトですね。
股関節前面のゴムバンドを装具に引っかけまして、股関節伸展位から引っ張ることで歩行速度を向上させよう、と。

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こちらは右下肢ステージW、歩行時麻痺側足尖のクリアランスに問題があった症例ですね。 
3回脳血管障害への下肢装具カンファレンスにて発表していますので興味のある方はまた読んでみてください。
左が未装着、右が装着下です。
この動画は装着した初日ですね。
即時的な効果がよくわかります。
何度も繰り返しますが、私がこだわっているのはとにかく歩行スピードです。
で、まぁこの変化は当然といえば当然ですよね。
ゴムバンドで引っ張ってるわけですから。
そしてみなさん再びこのような疑問をお持ちになったのではないでしょうか?

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バンドに依存してしまうんとちゃいますか?ということですね。

そこでこの症例でも、当然継続的にデータを取っています。

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この症例では理学療法場面を中心に、継続的に3週間、T-Support type Sを使用ました。
これが使用開始して20日目の比較動画です。
左が未装着、右が装着下です。
3週間使用すると、当初見られた装着による歩行速度の向上の効果が薄れます。
この動画の面白いところはそこなんですね。
これまで当院では比較的多くの症例で継続して使用してきましたが、圧倒的多数の症例で似たような変化を見せますね。
装着当初はTサポートで引っ張った方が早い。

 しばらくすると未装着下での速度がおいついてくる。

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これはおそらく、Tサポート使用前にはご自身で歩行速度を抑制しておられる患者さんが多いということだと私は考えています。
抑制しているスピードを、ゴムバンドで引っ張って解除してあげる、というのがこのタイプSの役割じゃないか、と思うんですね。
さて、本症例は麻痺側下肢がまぁまぁ動くケースでした。
じゃぁもっと重度の麻痺の場合はどないなるのか。
どないなると思いますか?
これがなかなか面白い話なんですね。
Tサポートは構造上、股関節伸展位になったときにゴムバンドが伸長され、その効果を発揮します。
ということは、重度の麻痺で揃え方で歩行するような患者さんでは、当然ですが、効果を発揮しません。

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こちらは下肢ブルンストロームステージ2から3への移行期あたりの症例です。
今度は左が装着下、右が未装着ですね。
装着初日です。
そうすると、装着してもあんまり歩行スピードが変わらないんですね。
先ほども申しましたが、当然といえば当然です。
弾性バンドが伸長されていないんですから、変わりません。
で、ここで当院の若い衆はすぐに『つけてもおんなじやんか』ということで使用をやめてしまう輩が多いんですね。
そうじゃないんです。
この場合は、まず前型歩行を獲得するように歩容を変えるんですね。
前型で、Tサポートを装着した状態で股関節伸展位から速くスイングする動作を何度も何度も経験していただいて、Tサポートを使いこなせるように練習する必要があります。
股関節伸展位にすることで、疑似的な軟部組織を伸長させてスイングする、という行為を繰り返します。

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これが使用開始から2週間が経過した時点の比較動画ですね。
左が装着下、右が未装着です。
2週間のTサポート装着下での前型歩行を繰り返すことで、前型の歩容が定着して、ようやくTサポートの効果を発揮することができるようになります。
T-Support使用時の方が随分と歩行速度が上がっていることがわかります。
繰り返しになりますが、速度を向上させて、強い踵接地を獲得することがトレーニングで最重要視していることです。
ここからさらに2週間、使用を継続します。

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使用から4週間経過ですね。
この段階で、1つ前の症例と同様、装着・未装着で歩行速度がほとんど同じになります。
それだけ、前型歩行が定着して、バンドを装着していなくてもご自身の股関節前面筋の伸長・収縮により歩行が可能になった、ということですね。
追いついた段階で、装着による利得が無くなったと判断し、使用を終了します。
この症例の変化については来年度の全国学会あたりで報告できたらいいな、と考えています。

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こちらが現在最新型のTサポートタイプSですね。
腰椎コルセットでキュッと腹圧を上げて、コルセットにから伸びたゴムバンドを短下肢装具に引っかけて牽引する、という構造です。
このタイプSは先ほどの長下肢用タイプLよりも万人受けするかな、と私は考えています。
短下肢装具で歩行速度を向上させたトレーニングをしたい患者さんで使用すると、足尖のひっかかりが減少して、歩行速度が向上します。
こちらもいずれしっかりとした商品として、みなさんに使っていただきたいなと考えています。

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で、T-Supportについては現在進行形でいろいろ改良を加えている状況ですが、繰り返しになりますがこれは片麻痺患者さんの歩行速度を向上させる上で非常に有用なものである、と感じています。
こちらの動画は先ほどゲイトジャッジの動画でも見て頂きましたが、右下肢は足関節の背屈がわずかにある程度で、運動麻痺としては決して軽くないんですね。
私自身、担当した当初は杖は必要なんじゃないか、と考えてゴール設定をしていたのですが、歩行速度を向上させたトレーニングを繰り返すことで短下肢装具の力も十分に発揮させることが可能となり、こうした動作が可能となりました。
こうした動作を可能とするには、速度を向上させた動作の反復が大きく貢献したのではないかと考えています。
ただし、動作の速度を向上させるために練習の速度を向上させるべきか、という点については現在私もいろいろ調べているところなんですが、いろんな議論があるようですね。
 
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左は皆さん良くごそんじの運動学習の権威、才藤先生の文献ですね。
ここでは、歩行動作は遅い速度での練習が速い速度の歩行課題に転移しやすい、と書かれています。
一方で体力科学系の論文では、またちょっと違ったことが書いてあります。
これはすいません、ものすごい古い30年の論文なんですが、元大阪体育大学の教授の論文ですね。
このグラフは、スピードを重視したトレーニングと筋力を重視したのトレーニングの特性を調べたものです。
グラフの横軸は、右に行くほどトレーニング時の荷重量を上げていく、ということです。
すると、速度を向上させたトレーニングを行うことで、トレーニング後にパフォーマンスの速度が向上するんですね。
このことから、最大速度を高めるためには最大速度を発揮するトレーニングが適している、と言えます。
私の個人的な感想としては、特に片麻痺患者さんは不安感などから速度を上げて麻痺側下肢に思いっきり荷重する、ということを避けたがる傾向にあります。
そのため、最終的に歩行速度を上げたいのであれば、練習の段階からわれわれの介助によってある程度強制的に歩行動作の速度を向上させる必要があるのではないかと考えています。

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陸上競技のトレーニングでもこのように、ゴムチューブで牽引して自己最大のスピード以上のスピード経験をチューブなどで牽引するトレーニングがありますよね。
牽引されながら、自分自身のスピードの限界を超えて走る事による技術習得が目的とされています。
実際にどれくらいの効果があるかは私もしらないのですが、自己のスピードの限界を超えるという体験はある程度効果はあるだろうな、と思います。
T-Supportも、これと似たところがあるのではないかと考えています。

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ここまで、私がいかにして片麻痺患者の歩行トレーニングにおいてこのように歩行速度を向上させたトレーニングをしてきたかについてお話しました。
先ほどもお話しましたが、私がこうしたトレーニングを始めたのはここ3年ほどです。
では他に同じようなことをしている人はいないんでしょうか。
いるんですね。
オランダに居るんです。
ここからは、オランダですでに商品化されているCVAidという歩行補助具についてお話します。
まず、私がCVAidを知るきっかけについてお話します。

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きっかけは脳卒中理学療法診療ガイドライン2011、ですね。
その409ページ、脳卒中の装具療法において、こんな文言があります。
肩から足部まで弾性ストラップでつないで制御する新しい装具の使用により、装着前後にエネルギー消費が減少し、歩行速度と歩幅が向上した。
3週間の装着後、さらにエネルギー消費に改善が見られた、と。
これ、確かこのガイドラインの文言を目にしたときの衝撃はいまだに忘れられません。
ちょうど3年ほど前で、T-supportの初期の試作品をいろいろ試してる時期だったんですね。
こんなゴムで麻痺側下肢を引っ張って、ほんまにええんやろか、という不安も抱えながらいろいろ試してた時期だったんですが、先にやってくれてる人がいる。
しかもガイドラインに紹介されている。
こんなに頼もしいことはないじゃないですか。
で、ガイドラインの文献リストを参考に文献を読んでみたんですよ。

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2007年にオランダの論文です。
慢性期脳卒中片麻痺患者にCVAidという麻痺側下肢を弾性バンドで引っ張る新しい装具を一定期間装着することで、装着していない場合にも歩行速度の向上、それに伴うエネルギーコストの低下が認められた、という内容です。
これを読んだときはうれしかったですね。
ああ、同じこと考えている人間がこの世にいたんだ、と。
これは是非あってみないといけない、と思い、ネットで検索してみたところ、

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ネットではCVAidを販売しているサイトがありました。
こちらがCVAidの開発者、ジェラルド氏なんですが、1997年に脳卒中左方麻痺を患い、さまざまな歩行補助具を使用したが、どれもしっくりこなかったこと。
自身で歩行補助具を作成したところ、歩行速度が3倍に向上したそうです。
びっくりしませんか。
これ作ったの、PTじゃないんですよ。
脳卒中の患者さんが、自分が歩きやすいように、作成してるんですよ。
ぜひお会いしたい、と思ったのですが、このジェラルド氏、すでに2007年にお亡くなりになっています。
2007年に亡くなったあとも、妻と3人の娘がこの道具を患者さんに使って頂きたいと願っておられるということで、これはもうとりあえずオランダに行くしかない、と思いまして、2か月ほど前にオランダに行ってきました。

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この写真の左側の女性がジェラルド氏の娘さんのミリアムさんですね。
横に居るのがその婚約者でした。
この左端のご婦人がジェラルド氏の奥さんですね。
私が日本から持って行った抹茶入りカステラを食べているところです。
今後みなさんもひょっとしたらそういう機会があるかもしれないんで、豆知識として覚えておいてほしいんですが、ヨーロッパに住んでいる人間にカステラを食べさせるときには、カステラの底に敷いてある紙は食べるものではない、ということを教えておかないといけません。
かれらはあの薄紙を全部食べていました。
さて、さっそく現地取材のVTRをご覧ください。

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で、CVAidなんですが、彼らが左用と右用1本ずつプレゼントしてくれました。
おそらく日本では当院にしかないと思われます。
何例かで試している状況ですがなかなか面白い発想ではあるのですが、これ、端的に表現すると、サスペンダーなんですね。
両側の肩をググっと引っ張ってきます。
なもんで、ある程度体幹がしっかりしていないと結構大変かなとは思います。

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ですので、現在川村義肢さんと協同で、T-SupportCVAidのヒュージョンといいますか、ハイブリッドと言いますか、ええとこどりの歩行補助具を作れないものか、といろいろ試行錯誤しているところです。 これも本日会場に持ってきておりますので、興味のある方はまた後ほどお声をおかけください。

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で、これが最後のスライドになりますが、本日私の話を聞かれた皆さん、宝塚ではさぞかし多くの患者さんが弾性バンドを装着したトレーニングをしているんじゃないかとお思いかもしれませんが、そんなことないんですよ。
私自身、現在の職場は若いスタッフが多いということもあって、まぁまぁ指導的な立場にあるんですが、このゴムバンドで麻痺側下肢を引っ張るというアプローチに興味を持ってくれるスタッフはむしろ少ないかな、と思います。
本日こうやって御集まりいただいた皆さんも、じゃぁさっそく明日から自分の担当患者の麻痺側下肢にゴムバンドをくくりつけてみよう、という方は少数派ではないかと思います。
私自身もまだまだ試行錯誤している状況ですし、これからもっとこのアプローチの科学的な根拠を明らかにしていく必要があると考えています。
この会場内で、もしも、ああ面白い話だった、いっぺん使ってみたい、という方がおられましたら、試作品ではありますが何点かご提供できると思いますのでこのあとまた私にお声をおかけいただければと思います。
以上が私の発表です。
御静聴ありがとうございました。

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ニックネーム
中谷知生
所在地
兵庫県宝塚市にある、宝塚リハビリテーション病院に勤めています。
職業
理学療法士です。

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